新チベット仏教史ー自己流ー

その5
とりあえず、『チベットの死者の書』を世に送った、エヴァンス・ヴェンツの言葉を探ってみたいと存じます。彼は、初版の前書きで、以下のように述べています。抜粋してみます。
 本書で求めているのは、出来るだけ、私自身の意見を押さえ、そして偏にチベットの賢者の代弁者たらんとすることである。私は皆が知っているように彼の弟子である。彼はこのことを私に強く望んでいる。高度なラマの教えの解釈を知らしめんことを、そして『バルド・トドル』に潜む微細な秘儀の解釈を知らしめんことを、若くあった時、ブータンの亡き聖師と修行に過ごした際、身近に口頭で受けた教えに従って知らしめんことを。彼自身が多くの西欧の学問に染まっていたこともあって、私をして東洋思想を再現させようとするのは困難の極みだった。西欧人の意識にもわかりやすくするというあり方においてである。付け加えれば、私は東洋で流布している様々な神秘的あるいはオカルト教義と西洋の類似性に、よく触れたものだ。私は大いにそうした。というのは、主に、高地ヒマラヤ、そしてカシュミール・ガルフヴァル・シッキムとのチベット国境での我が放浪のみぎり、私は、教養ある哲学者達に遭遇し、さらに掘り起こされた信仰と宗教的修行を見いだして、思惟する聖者達に遭遇したからなのである。それらは、いくつかは記録され、いくつかは口伝のみに残っているのだが、それは彼らの宗教というだけではなく、西欧の宗教との著しい類似性がある。彼等との歴史的関連性を示唆するかのようだ。思い描く影響が、東から西へなのか、西から東へなのか彼らの思惑は判然としない。ある類似性はあるのだが、地理的に分けられた地域の文化によるのであろう。・・・私は、実質的に、『チベットの死者の書』の編集者、出版者以上のものではない。亡くなった翻訳者、彼は、この時代のいかなる学者よりも、チベットオカルトや西欧の学問に優れた知識を兼ね備えていた。この企画は、まさしく彼の功績に帰するのである。(The Tibetan Book of the Dead,1960 rep.pp.xiv-xx)
エヴァンス・ヴェンツの興味は、西欧と東洋の神秘思想、その類似性にあったことがよくわかります。この前書きで「彼」と呼ばれている人物は、ラマ・カジ・ダワーサンドゥプ(Lama kazi Dawa-Samdup,1868-1922)というチベット人です。この人なくして『チベットの死者の書』もまたありません。ウイキペディアで検索すると、ダライラマや当時の著名な学者との通訳等を行った有能な人物のようです。英語版には、エヴァンス・ヴェンツといっしょの写真も載っています。また、書名の後には「バルドゥ次元における死後の経験、ラマ・カジ・ダワーサンドゥプの英訳による」と付記されています。


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