仏教余話

その234
さて、世親とサーンキャの関わりに戻ろう。服部正明博士は、ある対談で、以下のように、両者の関係をスケッチしている。
 ヴァスバンドゥ〔=世親〕は『倶舎論』の中で、サーンキヤ学派のヴールシャガヌヤに言及していますし、また、伝記によると、彼の師匠がサーンキヤ学派のヴィンドィヤヴァーシンとの討論に負けたとき、その報を聞いて急いでかけつけ、ヴィンドィヤヴァーシンと論争しようとしたが、相手はすでに死んでヴィンドィヤ山の石になっていたので、『七十真実論』を著してサーンキヤ説を反駁したことになっています。ですから、ヴァスバンドゥはサーンキヤ説を十分意識していたはずです。(服部正明・上山春平『仏教の思想4 認識と超越〈唯識〉』昭和45年、p.199)
後半は、既に、伝記で確認したことである。確実性からいって、『倶舎論』に登場するサーンキャ説を重要視すべきであろう。そのことは、少し後で、詳しく、調べることにして、まず、今まで、何度も、名の挙がった「説一切有部」の由来について、見ておこう。この奇妙な学派名は、『倶舎論』によれば、「三世実有」説という時間論に基づく。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?