仏教余話

その33
ここで、近代の仏教論理学の歴史を、要領よく、点描している文章が、あるので、少々、長くなるが、引用しておこう。現代の我が国における仏教論理学研究をリードしている観のある桂紹隆博士の解説文である。個人的な意見を言わせてもらえば、桂博士の業績は大きいが、全面的に賛同出来るようなものでもない。ラフな部分はいくらでもあるのである。しかし、全体に眼の行き届いたバランスのよい学者とはいえるだろう。では、博士の文を引いてみよう。長いので何回かに分けて提示する。
 第二次大戦後の仏教研究において目覚しい進展を見せた分野の一つは、仏教論理学の研究である。それは偏に一九二九~三四にチベットの僧院を訪れ、多くの梵語仏典写本を発見したラーフラ・サーンクリティヤーヤナが、戦中から戦後にかけて次々とそれらの写本を校訂・出版した結果である。その多くは仏教論理学の論書であり、それまでチベット語訳でしか知られなかったダルマキールティ(法称)の『プラマーナ・ヴァールッティカ(量評釈)』などの著作とそれに対する注釈、新発見のジュニャーナシュリーミトラやラトナキールティの多数の著作が一挙に公開されたのであった。それまでの仏教論理学と言えば、漢訳しか残されていないディグナーガ(陳那)の『因明正理門論』、ジャイナ教の僧院で写本が発見された法称の『ニヤーヤ・ビンドゥ』、シャーンタラクシタの『タットヴァ・サングラハ』など限られた文献によってしか研究することができなかった。宇井伯寿とトゥッチの『方便心論』『因明正理門論』など漢訳文献の研究(一九二九~三○)スチェルバツキーのBuddhist Logic(1930)、サトカリ・ムカジーのThe Buddhist Philosophy of Universal Frux(1935)は、いずれも戦前の仏教論理学の金字塔である。

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