「倶舎論」をめぐって
第8回 『倶舎論』概要
『倶舎論』は、全章に和訳があり、インド人、ヤショーミトラの注釈『明瞭義』の訳も整っています。以下に、各章の題名とその和訳を列挙しておきましょう。
1.界品(かいほん)(dhatu-nirdesa,ダーツーニルデーシャ)櫻部健『倶舎論の研究 界・根品』&荻原雲来・山口益『称友倶舎論疏』(一)~(三)
2.根品(こんぽん)(indriya-nirdesa,インドリアーニルデーシャ)同上
3.世間品(せけんぼん)(loka-nirdesa,ローカーニルデーシャ) 山口益・船橋一哉『倶舎論の原典解明 世間品』
4.業品(ごうほん)(karma-nirdesa,カルマーニルデーシャ)舟橋一哉『倶舎論の原典解明 業品』
5.随眠品(ずいめんぼん)(anusaya-nirdesa,アヌシャヤーニルデーシャ)小谷信千代・本庄良文『倶舎論の原典研究 随眠品』
6.賢(けん)聖品(じょうぼん)(margapudgala-nirdesa,マールガプドガラーニルデーシャ)櫻部健・小谷信千代『倶舎論の原典研究 賢聖品』
7.智品(ちほん)(jnana-nirdesa,ジュニャーナーニルデーシャ)櫻部健・小谷信千代・本庄良文『倶舎論の原典研究 智品・定品』
8.定品(じょうほん)(samapatti-nirdesa,サマーパッティーニルデーシャ)同上
9.破(は)我品(がほん)(atmavada-pratisedha,アートマヴァーダープラティシェーダ)櫻部建「破我品の研究」『大谷大学研究年報』12,1960、 櫻部建「倶舎論における我論―破我品の所説」中村元編『自我と無我―インド思想と仏教の根本問題』、船橋一哉「称友造阿毘達磨倶舎論明瞭義釈 破我品―梵文の和訳と註と梵文テキストの正誤訂正表―」『大谷大学研究年報』15,1963、村上真完「人格主体論(霊魂論)-倶舎論破我品訳註(一)」『塚本啓祥教授還暦記念論文集:知の邂逅―仏教と科学』1993、同「人格主体論(霊魂論)-倶舎論破我品訳註(二)」『渡邊文麿博士追悼記念論集 原始仏教と大乗仏教』下、Th.Scherbatsky;The Soul Theory of the Buddhism,1920、J.Duerlinger;Indian Buddhist Theories of Persons,Vasubandhu’s “Refutation of the Theory of a Self”,London and New York,2003。
これらの訳書を見れば、『倶舎論』の内容は容易に知ることが出来ます。でも、実際に読んでみると、仏教独特の用語が出てきて、理解するのは簡単ではありません。第1・2章が総論、第3・4・5章が煩悩論、第6・7・8章が解脱論という構成になっています。最後の第9章は、異質な章で、付論とされています。第8章までは、カシュミールにあった説(せつ)一切(いっさい)有部(うぶ)という部派の教義を中心に書かれています。第9章は、その教義を離れ、作者世親(せしん)が自説を縦横(じゅうおう)に論じた章とされています。
以上で『倶舎論』のイントロダクションとしたいと思います。
〈付記〉如何でしたでしょうか?気に入って下されば、また、投稿の機会を持ちたいと思います。
才所丑松 記 令和4年 12月大晦日の夕
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