仏教豆知識

その3
しばらく、万国宗教会議のことを追ってみま
しょう。那須(なす)理(り)香(か)という人の論文がネットで見られます。そこにはこうあります。
 シカゴ万国宗教会議は、クリストファー・コロンブスの「新大陸発見」400周年を記念して開かれたコロンビア万国博覧会に併設する会議の一つとして1893年9月11日から27日までの間開催された。コロンビア万国博覧会は、近代化をとげたアメリカの経済発展を世界に示す場として物質的豊かさを誇るものであった。しかしそれと同時に、経済優先、物質主義からくる人間性の喪失(そうしつ)という側面についても問題提起する場として「物ではなくて人間、物質ではなくて心」という開催モットーを掲げていた。当時のアメリカ社会は、マーク・トウェインらによって名付けられた「金箔(きんぱく)の時代」と呼ばれる金(かね)を中心とする物質主義がはびこっていた。科学技術の進歩により貨幣(かへい)経済(けいざい)が浸透(しんとう)、人々は消費文化を享受(きょうじゅ)するとともにアメリカ建国以来のピューリタン的労働規範(きはん)が顧(かえり)みられなくなっていった。金の魔力に魅了(みりょう)された人々は物品(ぶっぴん)購入(こうにゅう)を精神救済の手立て(てだて)としてとらえるようになり、神への信仰より現世的(げんせてき)な欲望を満たすことを優先するようになったという。すなわち貨幣経済における消費社会において、道徳社会倫理(りんり)の規範としてのキリスト教の役割はその機能を停止するという状況に陥(おちい)ってしまったのである。またチャールズ・ダーウィンの進化論に基づく近代科学主義も、キリスト教の弱体化(じゃくたいか)を招く結果をもたらした。キリスト教では神による天地創造が世界の始まりとして、信仰の基礎となってきた。しかし進化論では、神による天地(てんち)創造(そうぞう)を否定、人類も自然の摂理(せつり)に従って生存(せいぞん)競争(きょうそう)を繰り返すことによって進化したと考える。この説は、敬虔(けいけん)なキリスト教者たちを動揺させるとともに、科学の信奉者(しんぽうしゃ)によるキリスト教批判を促進(そくしん)する結果をもたらした。キリスト教は絶対的規範としての地位を失い、国民は精神の拠(よ)りどころとしての宗教を失う不安にさらされてしまったのである。このような社会背景のもと、アメリカのキリスト教界はシカゴ万国宗教会議をキリスト教の威信(いしん)回復(かいふく)のための絶好の機会としてその開催を促進した。万国宗教会議の議長として選出されたジョン・ヘンリー・バローズ(シカゴ第一長老教会の牧師)による開会式の挨拶(あいさつ)にその意気込みがみられる。キリスト教界は、この宗教会議を真実と愛を照らし出す聖火として誇りを持って掲げよう。20世紀の明けの明星(みょうじょう)であることを証明しよう。アメリカがキリスト教国であることは、真に高潔(こうけつ)な意味を持つものである。・・・我々の宗教がほかに勝るものであることは一般に受けいれられ、認められている。バローズはキリスト教至上主義的立場から、この会議がアメリカにおけるキリスト教の威信を再び内外に知らしめる機会ととらえていた。(那須里香「1893年シカゴ万国宗教会議における日本代表 釈宗演の演説―「近代日本」伝播の観点からー」『日本語・日本学研究』5,2015,pp.82-83,ルビほぼ私)
結局、バローズの思惑は外れ、キリスト教ではなく、アジアの宗教に人々の関心は集まりました。

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