Tips of Buddhism

At the time of Buddha India was seething with philosophic speculation and thirsty of the ideal of Final Deliverance.Buddhism started with a very minute analysis of the human Personality into the elements of which it is composed.The leading idea of this analysis was a moral one.The elements of a personality were,first of all,divided into good and bad,purifying and defiling,propitious to salvation and averse to it.
(F.Th.Stcherbatsky:Buddhist Logic,vol.1,New York,rep.of 1930,p.3,l.22-p.4,l.3)

(訳)
ブッダの時代、インドは、哲学的思弁、そして、最終的解脱という理念への渇望に沸き立っていた。仏教は、人間の我の細密な分析から始まった。我を、それを構成している法へと〔分析するというものであった〕。この分析の主要なる考え方は、道徳的なものであった。我の要素〔=法〕は、先ず、良きもの(無漏)・悪しきもの(有漏)、清きもの(清浄)・穢れたもの(雑汚)、悟りに役立つもの(善)・悟りに背くもの(悪)に区分された。

(解説)
シチェルバツキー(Th.Stcherbatstsky1866-1940)の主著『仏教論理学』からの引用である。『仏教論理学』は、前に講読したムケルジーの著書と共に、この分野の古典的名著である。前著『仏教の中心概念とダルマという語の意味』Central Conception of Buddhism and the Meaning of the word Dharmaと『仏教的涅槃の概念』 The Conception of Buddhist Nirvanaに続くもので、3部作の最後を飾る重要な作品である。前2著には、日本語訳があるが、残念ながら、本書にはない。前2著は、それぞれ、『小乗仏教概論』『大乗仏教概論』と題されて、金岡秀友氏によって、訳されている。『小乗仏教概論』には、ロシア語から訳されたシチェルバツキーの伝記が付加されている。シチェルバツキーは、その他にも、中観や唯識仏教の重要なテキストについての訳書を、多数著した。『インドのイメージ』というロシア仏教学者の列伝には、『仏教論理学』に関して、以下のような記述がある。
 シチェルバツキーの2巻本『仏教論理学』(1930年―1932年)は、仏教哲学・論理学の分野への多年の研究成果である。ダルメンドラナタ・シャストリの意見によれば、「本書は、ここ250年のインド哲学の中で、最重要作品である」、イギリスの名立たる仏教学者、エドワード・コンゼは、『仏教論理学』を、「第1級の傑作」と称した。
 (G.Bongard-Levin&A.Vigasin;The Image of India,The Study of Ancient Indian Civilisation in the USSR,Moscow,1984,p.138)
このような、称讃の反面、『仏教論理学』には、その解説が、あまりにカント的であるという批判が、なされてきた。しかし、それは、シチェルバツキーの意図を曲解(きょっかい)した言いがかりにすぎない。仏教の解釈にカントを持ち込むのは、他の分野でも批判の憂き目にあってきたが、最近では、インド哲学をカント的と評する意見も出ている。思想解釈の流行(はやり)廃り(すたり)の一種である。
 シチェルバツキーは、英語からの発音で、本来ロシア人であるから、ロシア語で呼ぶべきだろうが、英語名が普及しているので、それに従った。
 尚、ここで訳した個所の本文、脚注には、相当サンスクリット語が、示されている。( )内の仏教語は、それに基づき加えたものである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?