「倶舎論」をめぐって

LV
実に瑣末なテーマであるという印象を持つかもしれないが、この種の研究も、思想的理解の根幹に関わることもある。研究者の見識が問われるのは、テーマそのものではなく、その扱い方に帰するということである。最後に、『明瞭義』を実際に使用した際の、私自身の印象を加えておきたい。『明瞭義』の特徴の1つは、サンスクリット文法に準じた解説が多いことである。この点で、語学的な困難さが付きまとう。『明瞭義』のチベット語訳
では、文法的説明はカットする場合もあり、サンスクリット語に堪能な者でなければ、この注釈書は使いこなせないであろう。こういっている私自身が、堪能でないので、苦慮している。また、ヤショーミトラには、『明瞭義』以外の作品がないので、彼の真意がどこにあるのか、判定しづらい。一般的に経量部といわれるが、実は、経量部自体が、インド仏教中、最大の謎の学派である。それ故、経量部に帰属するとされても、ヤショーミトラの思想解明には、至らない。難問山積なのである。このことは、先にも触れた。とはいえ、和訳も完備しているので、利用しやすいし、その情報は価値がある。蛇足ながら、サンスクリット語原典とチベット語訳の留意点について、補足しておきたい。ヤショーミトラのサンスクリット語原典の特徴の1つは、文法的説明である。


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