因明(インド論理学)

その4
さて、こうして、書誌学的情報を中心に、『真理綱要』について、瞥見した。次に、その内容に触れてみよう。最も、便利な論文には、渡辺照宏「摂真実論序章の翻訳研究」(『渡辺照宏仏教学論集』昭和57年、所収、pp.59-77)がある。同論文は、『真理綱要』の全章を簡単に述べ、各章に対するカマラシーラの注の1部を和訳紹介している。『渡辺照宏仏教学論集』の解題において、宮坂宥勝氏は、こう綴っている。
 先生はこの大部の論書を克明に全部読まれ、サンスクリット・チベット語索引を作製されていた(これは近く公刊の予定である)。序章の各論はこの著作の全体の綱各をのべたものであるから、著作の全篇を理解していなければ訳し得ないものである。…公刊予定の『摂真実論の研究』は未発表のまま終わった。(『渡辺照宏仏教学論集』昭和57年、pp.574-575)
この解題からすれば、渡辺照宏博士の論文ほど『真理綱要』の全体像を把握するのに適したものはない。手にとってみれば、すぐわかることだが、『真理綱要』全部を通読するのは、大変な難事である。私事だが、たった数ページ読むのに1ヶ月あまりも費やしたこともある。では、先ず、『真理綱要』の各章を順に紹介してみよう。
第1章「〔サーンキヤ学派の〕世界根本原因の考察」prakrti―pariksa
第2章「〔ニヤーヤ学派の〕自在神の考察」isvara―pariksa
第3章「〔有神論的サーンキヤ=ヨーガ学派の世界根本原因と自在神〕両方の考察ubhaya―pariksa
第4章「自性論者の考察」,svabhavikajagadvada―pariksa
第5章「〔文法学派の〕言霊の考察」sabda―brahma―pariksa
第6章「〔ヴェーダの〕原人の考察」purusa―pariksa
第7章「我(アートマン)の考察」atma―parik
第8章「常住な存在の考察」sthirabhava―pariksa
第9章「業・果関係の考察」Chapter 9,karma―phala―sambandha―pariksa
第10章~第15章「〔ヴァイシェーシカ学派の〕存在規定の考察」dravya―padartha―pariksa、Samavaya―padartha―pariksa
第16章「言葉の対象の考察」sabdartha―pariksa
第17章「知覚の定義の考察」pratyaksa―laksana―pariksa
第18章「推理〔機能〕の考察anumana―pariksa
第19章「他の認識手段の考察」pramanantara―bhava―pariksa
第20章「〔ジャイナ教等の〕蓋然論の考察」syadvada―pariksa
第21章「〔説一切有部の〕三世実有論の考察」traikalya―pariksa
第22章「唯物論者(順世派)の考察」lokayata―pariksa
第23章「外界対象の考察(=唯識の考察)」bahirartha―pariksa
第24章「天啓聖典(=ヴェーダ)の考察」sruti―pariksa
第25章「〔ヴェーダの〕自立的権威性の考察」svatah―pramanya―pariksa
第26章「超感覚的対象把握者〔一切智者〕の考察」atindriyartha-darsi-pariksa

以上の26章から成る。本著作には、サンスクリット原典・チベット語訳・英訳が完備し、
各章の和訳も豊富である。研究環境は充実しているといってよいだろう。

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