新チベット仏教史―自己流ー

その6
 第2版の前書きでは、エヴァンス・ヴェンツは、こう記しています。適宜、抜き出してみます。
 ここに、『チベットの死者の書』の第2版が刊行された。その出版者〔たる私エヴァンス・ヴェンツ〕は、補足の前書きで解説するよう慫慂(しょうよう)された。根本的に伝えたいことは、本書が含んでいることである。それは、〔チベットの〕人々がこの世で功利主義や肉体的存在にどれほど目を奪われているか、肉体の感覚にどれほど縛られているかである。西欧の人々と同じなのである。・・・訳者、故ラマ・カジ・ダワーサンドゥプの強い願い、出版者をチベット研究に導いた学識あるラマ達、出版者も共有する願いとは、この神秘的教えや、教えのキリスト教化したヴァージョンが役立つことである。(The Tibetan Book of the Dead,1960 rep.pp.xv-xvii,[ ]内私)
ここでも、エヴァンス・ヴェンツは、西洋と東洋の相似性を謳い、両者の架け橋足らんとしているようです。第3版の前書きも見ておきましょう。そこから摘記してみます。
 深い感謝の念をもって、私はこの前書きを書くのである。西洋でこの死と再生の書に対して偉大なる名声が示されているけれど、西洋の心理学者、カール・ユング博士が、「心理学的解釈」において、示したものほど名誉なるものはない。・・・我が最初の重要作品、『ケルトにおける妖精信仰』を44年前に、発表した時、その再生の仮説は、科学的な広がりとダーウインの進化論の訂正を暗示したのである。(The Tibetan Book of the Dead,1960 rep.pp.vii-x,)
ここで有名なユング(C.G.Jung,875-1961)の名が出てきます。ユングの後押しを得た『チベットの死者の書』は、その名声を確固たるものとしたのです。さらに、エヴァンス・ヴェンツの大学での研究論文『ケルトにおける妖精信仰』にも触れています。そこで、今も影響大なるダーウインの進化論を批判をしたことを披瀝(ひれき)しています。再生という概念は、進化論にはないのでしょうか。

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