Tips of Buddhism

No.16
During those years,apart from working,Steve Jobs started to practice Zen meditation at the San Francisco Zen Center,there he got to know the monk Kobun Chino Otogawa,whowould become his mentor and friend during the rest of his life.(from site The Zen of Steve Jobs,Kobun Chino Otogawa and Japan)

(訳)
数年来、仕事を離れ、スティーヴ・ジョブズは、サンフランシスコ禅センターで、禅という瞑想の実習を始めた。そこで、乙川・千野・弘文という僧を知るようになった。彼は、人生の残りの期間、助言者そして友となったのである。

(解説)
アップルの創業者スティーヴ・ジョブズ(1955-2011)が禅に入れ込んでいたのは、もはや説明の必要もないほど、有名な話である。彼の禅の師が、乙川弘文(1938-2002)である。乙川は、駒澤大学を卒業後、京都大学で大乗仏教を学んだという。アメリカでの禅の普及度は高い。そのアメリカでベストセラーとなった、禅書の冒頭の1句を示してみよう。
  初心者の心には、たくさんの可能性があるが、専門家のそれには、ほとんどない。
“In the begginer’s mind There are many possibilities,but in the expert’s there are few.”
(『禅の心、初心者の心』Zen Mind,Begginer’s Mind by Shunryu Suzuki(鈴木俊隆)New York & Tokyo,1970.p.17)
このような魅力的な言葉で、アメリカ人を引き付けたのである。スティーヴ・ジョブズもその1人だったのだ。1部のみジョブズへの言及を引用し、彼の禅への傾倒ぶりを見ておこう。
 ジョブズは永平寺での修行を断念したあと、常に黒いシャツを身につけていました。これは、永平寺で作務(掃除などの作業)を行うときに着る黒い作務衣をモチーフにしたものと言われています。これなども、自分自身の「行動」を、禅の実践の一部として担保するためのものではなかったでしょうか。その「黒衣」をもって、新たなパフォーマンスを発揮する製品を開発すること、それが彼なりの禅的自己実践だったように思えてなりません。(石井清純・角田泰隆『禅と林檎スティーブ・ジョブズという生き方』2012,p.204)
ジョブズが禅の影響下にあり、欧米で禅が流行しているのは、紛れもない事実である。しかし、その理解まで正しいとは限らない。誤解・無知に満ち、好き勝手に「いいとこどり」をしている場合も多い。ジョブズという名前に誤魔化されないで、真相を見極めることが肝心である。ともあれ、禅は今や世界的ブームである。それもこれも、前の時代の人々のおかげであろう。ここで、その代表的人物、鈴木大拙の言葉を引いておこう。
 当米国(とうべいこく)の如(ごと)きはシカゴの宗教大会にても知らるる如く、宗教信仰の上にも頗る(すこぶる)自由寛大の精神を有し、仏教の為(ため)に好布教地(こうふきょうち)たりと雖も(いえども)「大乗仏教大意」の如きものにては殆ど(ほとんど)其効(そのこう)を見ざるべきかと予(よ)は恐る。ケーラス氏の『仏陀(ぶっだ)の福音(ふくいん)』の方遥か(はるか)に大なる結果を生ぜんも知れず。兎に角(とにかく)、一宗教を他国民の間に布(し)かんと欲せば、其(その)国民の心にて考え、其国民の胸に感じ、其国民の文字にて表出せざるべからず。(「我日本の大乗仏教徒が世界に於ける宗教的責任」『鈴木大拙全集』別巻一、補遺一、昭和46年、p.89、ルビ私)
「大乗仏教大意」とは、鈴木大拙が書いた本格的な仏教教理を示したものであろう。それは難し過ぎてアメリカ人には受け入れられなかった、と嘆いている。


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