仏教豆知識

その4
まさに、森の賢者の趣(おもむ)きがあります。このようなソローの姿を捉えているのは、豊田千代子氏です。豊田氏は、論文の終わりで、こう述べています。重要な示唆(しさ)を含んでいると思われるので、少々長い引用ですが、御寛恕(ごかんじょ)願いたいと思います。
  ソローが森で体験した暮らしは、効率や便利さを重視する大量生産・大量消費型の現代社会に生きている私たちに、多くのことを教えてくれた。たとえば、簡素(かんそ)に暮らすことで、自由に生きれることや、自然やものごとをよく感じながら生きれることを、ソローは示してくれた。簡素な暮らしは、私たちの身体に、ものごとを吸収できる容量を増やしてくれるのだろう。感受性を高める生き方をするには、ソローのような簡素な暮らしを私たちが選びとっていくことが大事になるのではなかろうか。また、ソローの暮らしは、今を生きることの大事さも認識させてくれた。ソローは、常に「今」を生き、森の暮らしを楽しんだ。自然を心ゆくまで眺めて幸福感に浸(ひた)ったのだった。他方で、私たちの暮らしは忙しい。膨大(ぼうだい)な情報を瞬時に処理して暮らしている。「今」に向き合い、「今」を感じながら生きるのは困難である。こうした生き方は、ソローの暮らしとは対極(たいきょく)にあるように感じられる。ソローが、自給自足(じきゅうじそく)的な簡素な暮らしによって自由な時間を生み出し、余暇(よか)を存分に楽しんだように、私たちも「簡素」という価値に基づくライフスタイルを積極的に創造し、自分を大切に生きていくことが重要なのではなかろうか。さらに、自然と深く関わることで感受性が高まることも、ソローの暮らしから学べることがらであった。ソローは生活者として2年余り定住し、具体的な自然と関わった。ソローの感受性は、そうした中で育っていったのである。私たちにとっても、このような自然と深く関わる体験は大事であろう。(豊田千代子 「ソローと森の生活」『駒澤大学教育学研究論集』31(2015):1-15.Web.17 May 2018.pp.12-13、ルビ私)
『ウオールデン』の出版に際し、序論では、彼の生活振りに影響された人物がこう述べています。
 始めて〔ソローの主著〕『ウオールデン』を読んだ昔の思い出は、まだ鮮明(せんめい)だ。ソローは、1度で、我が少年時代の旅、カスケード連山(れんざん)への酷(ひど)く孤独な〔旅の〕道連(みちづ)れとなった。「我らには野生と言う強壮剤(きょうそうざい)がいる」という彼の言葉は、以来、共に旅しているものだ。彼とジョン・ミュアーは、幼い時から、我が自然主義哲学者だった。恐らくは、彼らの感化の賜物(たまもの)で、私は木の下の地面にいる時と同じように、決して眠らない。(Walden,ed.byN.P.Ross,New York,1962,p.xiii、私訳)
この英文を書いたドウグラス(W.O.Douglas)氏は、ウイキペディアによれば、アメリカの著名な司法家で、自然保護運動にも熱心だったようです。ワイルドビルというあだ名を持っていたとのことですから、その活動内容も推測出来ます。

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