仏教論理学序説

その17

チベット人が著した最初期の『量評釈』注釈において著者ウユクパ(‘U yug pa,?-1253)は、第40偈の注でこう問題を鮮明化している。
 また、〔因中有果論たる〕サーンキャ学派(grangs can)は、普遍と個物は同一と主張する。一方、〔因中無果論たる〕ニヤーヤ学派(rig pa can)は、別異と主張するけれど、普遍からすれば、〔多数の個物の中に、普遍が〕同一なものとして混合している、〔と主張している〕と、伝えられる。この2つを批判する解説として〔同じく因中無果論ではあるが、二ヤーヤ学派の新造説(arambha-vada)とは異なる〔素材〕形成論(samghata-vada)を説くものとして39)、ダルマキールティの第40偈を〕理解するべきである。
de yang grangs can ni spyi dang bye brag gcig tu ‘dod la rig ba can tha dad du ‘dod kyang spyi’i sgo nas gcig tu ‘dres zhed zer te ‘di dag dgag pa ‘grel par shes par bya’o//(Tshad ma rnam ‘grel kyi ‘grel pa rigs pa’i mdzod『量評釈注正理蔵』Dehli,1982,vol.1,ma,24a/4-5,p.47)ウユクパについて、簡単に言及しておこう。彼は、チベットを代表する大学者サキャパンディタ(Sa skya pandita,1182-1251)の弟子だと伝えられる。サキャパンディタは、元の来襲の際、チベット側の長として交渉にあたった。このように、政治的に優れた力量を持ちながら、一方で学問にも極めて秀でていた。チベット仏教論理学の金字塔『量正理荘厳』Tshad ma rig gtel等多くの名作を残した。ウユクパは、彼に論理学を学んだが、師とは意見を異にすることもあった。私見だがウユクパの『量評釈』注は、インド。チベットを通じて最上のものの1つである。その明快さ簡潔さ多種の異論のバランスの取れた引用の仕方。どれも素晴らしい。今後注目すべき注であろう

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