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女化たけのこ園のタケノコについて

 タケノコの味は土の味です。竹林がある場所の土の質に大きく左右されます。一般的にタケノコの名産地と言われる所の土は赤土で粘土質です。有機物が少なく空気が通りません。このことは、タケノコに味を与える要素が非常に少ないことを意味します。ですから、タケノコに移る土の味がありません。それが結果的に『えぐみが無い』ということにつながります。『えぐい』というのは食べ物にとって致命的で、食べられないほどの不味さにつながります。ですから『えぐみの無いタケノコ=良いタケノコ』となり、そういうタケノコが出る所が名産地となりました。
 一方で当園の土は有機物を多く含み、粘土質ではない、いわゆる畑の土です。そもそも当園の竹林は、1968年にもともと畑だった所に竹を移植して作られた竹林です。えぐみの少ないタケノコが出る昔ながらの名産地とは条件が全く違います。
 このことは、美味しいタケノコが出ることにとっては不利な条件に感じます。しかし、そういう場所だからこそ、当園ならではのタケノコを生み出すことができます。
 冒頭で、『タケノコの味は土の味、粘土質の土はタケノコに味を与える要素が少ないからえぐみが出ない』と申し上げました。これをもう一歩踏み込んでお話しすると、『えぐみが出ない、その代わりにはっきりとした味も出ない』ということが言えます。だから、タケノコの名産地のタケノコ料理は薄めの味付けでほのかな香りを楽しむ物が多くなります。
 また、タケノコ料理についてもう少し申しますと、産地に関わらず地上に多く出てしまったものや掘ってから時間が経ったものは強烈なえぐみが出ます。そうすると、米ぬかやトウガラシや重曹等を使って徹底的にえぐみを抜かないと食べられません(いわゆるアク抜き)。徹底的にアク抜きをすると、味も香りも抜けます。しかもえぐみが完全に抜けるわけではありません。だからそういうタケノコは、えぐみが気にならないように濃い味を
付け、タケノコの味というよりも食感を楽しむ料理になります。
 さて、当園のタケノコの味について申しますと、当園では竹林の土を畑で作物を育てる場合と同じ様な状態に管理します。肥料も入れます。タケノコに限らず、その作物らしい味がしっかりする農作物になる条件は、ミネラルが豊富であることです。そういう作物を育てるために必要なことは、土をミネラルが豊富な状態にすることです(植物は土からミネラルを吸うため)。当園では竹林の土をその状態にします。これができるのは、当園の竹林の土が竹林らしい粘土質ではなく、もともと畑の条件に合った土だからです。この土から出てきたタケノコは、旨味も甘みも香りも独特のクセも、タケノコが本来持っている要素をすべて含んだタケノコです。『えぐみの無いタケノコ』ではなく、『タケノコの味がするタケノコ』です。


竹林を管理するということ

竹林は、管理しなければ現状維持ができません。竹林を放置すると出てきたタケノコがすべて竹になり、あっという間に中に入れなくなります。だから、出てきたタケノコは掘らなければなりません。ただし、タケノコを掘り続けるだけだと、もともとある竹がだんだん古くなるにつれて、良いタケノコを出す活力が無くなります。だから、毎年良いタケノコを掘らずに残して新しい竹にし、古くなった竹を切って竹林を更新しなければなりません。だいたい5年程度で竹を切るので、竹林自体は同じ場所にあり続けますが、今生えている竹で10年後もここに存在する竹は一本もありません。竹林は、同じものを維持するためには変化をし続けなければならない事を実感させてくれる、示唆に富んだ場所です。


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