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お守りの有効期限はいつまで論

最近、いろんな神社のご社頭を拝見すると、とても個性豊かなお守りの種類が増えてきたように感じます。

以前は「ザ・御守」のようなフォルムのものが当たり前でしたが、今はご利益ごとにいろんなお守りがあります。交通安全、学業成就、厄除け、身体堅固、安産祈願など定番のものもあれば、旅行安全、スポーツ成就、美人祈願、的中祈願など、じつにバラエティに富んでいます。

定番のお守り、例えば学業成就のお守りのなかでも、合格祈願に特化したもの、さらには合格=5角で絵馬にしたものなどカテゴリーが細分化したものや、もっと言うとある神社さんでは病気ごとや体の部位ごとの病気平癒のお守りがあるとか。さらにはストラップやカード系、シールやSDカードなど、グッズ化しているものまであり、もはやお土産コーナーとなんら変わらないのでは、と思ってしまう方もいるかと思います。ですが、社頭で頒布されている「お守り」と言われるものはお祓いが済んで神様が宿っていますで、お守りのカタチに正解なんかはないのかもしれません。

お守りが多様化してきたとはいえども、神社自体が昔から多様化と変化を繰り返してきたので、たかだか数十年の変化はさほど問題ではないんじゃないでしょうか。ねぇご先祖様。

ただ、これほど変化に富んだお守りでも、長らく変わっていない概念があります。

それは、

お守りの有効期限は「一年間」

どのようなお守りでも「効力」の期限は一年間とされています。今回は有効期限がなぜ一年間なのか、について考察いたします。

まず「一年間」とはいつからいつまでなのか。

お守りを手に入れた日から?お正月から?そもそも1年じゃなくて願いが叶うまで?などいろいろ諸説がありますが、有力なのは「お正月から一年間」です。じゃあ12月31日に買ったお守りは1日しか効力がないのか!?という意地悪な質問はちょっと最後に置いといて、「1年」というキーワードについて解説いたします。

1年の「年」は「ねん」「とし」と読み、「歳」とも書きます。この「歳」という字が大きく関係しています。

「歳」は「戉」と「歩」から成り立っていると言われています。「戉」(エツ)は刃物などの意味で、「歩」は「あるく、あゆむ」ですが、「時間のあゆみ」の意味があります。このふたつの意味から、「歳」は「刃物で稲を刈り取る時間」を表しています。

稲からお米となるわけですが、その稲が育ってお米になって食べられるようになるまでには、苗を育てて、代かきをして田を整え、水を張って苗を植えて、途中草取りなどをして、田んぼを乾かし、稲刈りをして、稲を乾かし、脱穀して、その間田んぼを休ませながら、玄米を精米してようやく食卓に並びます。

この行程が約一年間になります。

昔の人はこのサイクルを「歳」と言い、その時間が現在の暦に当てはめられ、1年となりました。

現代の人は365日が過ぎた「時間経過」を1年としていますが、もともとは稲作のサイクルを1年としていました。

そして我々日本人のご先祖様方は、このお米をいただくことが出来るのは神様からのお恵みがあるからだと長い間信仰してきました。

春にはお田植え祭をして神様に豊作を祈願し、夏には無事に夏を越せるよう罪や穢れを祓う「大祓」のお祭りをし、秋には無事収穫できたことを神様に感謝する「秋祭り」を行います。

これらのサイクルを1年とした上で、ひとつの区切りとしてとても大切な日を「お正月」としてきました。

こういった考え方から日本人は「1年」や「お正月」を大切にしてきたので、今の世の中でも、お正月には多くの日本人が初詣に出かけます。割と自慢げに「自分は無宗教だ」と言ってる方ですら初詣には行くみたいなので、稲作から由来する「1年のサイクル」は日本人に遺伝子レベルで組み込まれているのかもしれません。

ただ、日本の神様は外国の神様のように万能ではありません。神様も一年間ずーっと高パフォーマンスを維持できるわけではないのです。

神様のパワーの源は人間の信仰心です。お正月だけお願いしても神様の力は長続きしません。春の祈年祭や夏の大祓、秋の収穫祭である秋祭りで、たくさんのお供え物を差し上げてなんとか1年間お恵みを頂戴しています。

こういう言葉があります。

「神は人の敬いによって威を増し、人は神の徳によって運を添う」

めっちゃくちゃ簡単にいうと、「神様も人もお互い支え合っていきましょ」ってことです。なので、お願いするだけではなく、人から神様になにかできることはないかを考えることも大切なんです。月に1度お参りするだけでもいいし、神棚にきちんと手を合わせるだけでもいいのです。その行為が神様のパワーの源になっているのですから。

結論!

昔の人は稲作という1年のサイクルから、神様のお恵みを1年ごとにいただいていた、ということから「お守りの有効期限」は1年間である、と言えます。ただし、1年間といっても徐々に神様の力がなくなっていきますので、日々お守りを丁寧に扱い、たまにはお守りに宿る神様に感謝しましょう。


では結びに、冒頭にありました「12月31日に買ったお守りの効力は1日なのか」という質問にはこうお答えしたいと思います。

「1年間のサイクルの由来をご理解いただけましたら、そのお守りを納める日が来るまでどうぞ大切にお持ちください」

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