動機善なりや、私心なかりしか

 京セラやKDDIを立ち上げ、77歳の時に日本航空 (JAL) の再建を無報酬で引き受け、見事に再建を成し遂げた稲盛和夫氏、先月24日に老衰のため90歳で亡くなった。この方こそ国葬にして欲しいと思えるほど、世の中のありとあらゆる層に影響を与えている。 
 それにしても既に経営の第一線から退いていたにもかかわらず、また晩節を汚す可能性もあったにもかかわらず何故引き受けたのだろうか。旧知の前原誠司国土交通省の再三の要請に応じたためとあるが、稲盛氏には頼まれれば世のために一肌脱ぐ気概があるとのことではある。そのことがあって、遅ればせながら私も虜になった。もしかすると得度を済ませた在野の僧であったことに影響するのかもしれない。仏教の教えによるのかもしれない。そういえば京セラフィロソフィーの中にこんな記述が出てくる。
 仏教では「山川草木、悉皆成仏」(さんせんそうもく、しっかいじょうぶつ) と言い、山も川も草も木も、すべてことごとく仏であると教えます。これについては皆さんも昔両親などから、「ご飯粒一つにも仏が宿る」などと教わったことがあるのではないでしょうか。
 このように、人間の本質、根源についてはさまざまな表現があるわけですが、その本質とは、「愛」と「誠」と「調和」の三つの言葉で表されるものなのです。皆さんは気づいていないかもしれませんが、皆さんそのものが愛と誠と調和に満ちた存在なのです。あるいは、「あなた自身が仏である」と言ってもいいでしょう。
 ところがわれわれは、愛と誠と調和に満ちた魂を持っていると同時に、肉体というものも持っています。この肉体を維持するために、われわれは食物を通じて栄養を取り続けなければなりません。また、食糧がなくなれば人から奪ってでも自分の肉体を守ろうとする欲望さえ持っています。もともと人間の本質とは、愛と誠と調和に満ちた美しいものであるはずなのですが、魂が肉体をまとっていますから、最初は肉体が発する欲望が出てきてしまうのです。
 勇気を持ってこの魂の外側を覆っている欲望を少しでも抑え、自分の本質である愛と誠と調和に満ちた魂が出てくようにしなければなりません。そうすることによって、常に自分自身を高め、自らの心を愛と誠と調和に満ちた状態に保ち、すべてのものを生かそうとする宇宙の意思、宇宙の心と調和させていくのです。
 きれいな心で描く願望でなければ、すばらしい成功は望めません。強い願望であっても、それが私利私欲に端を発したものであるならば一時的には成功をもたらすかもしれませんが、その成功は長続きしません。世の道理に反した動機に基づく願望は、強ければ強いほど社会との摩擦を生み、結果的には大きな失敗につながっていくのです。
 成功を持続させるには、描く願望や情熱がきれいなものでなければなりません。つまり、潜在意識に浸透させていく願望の質が問題となるわけです。そして純粋な願望を持って、ひたすら努力を続けることによって、その願望は必ず実現できるのです。~中略~
 仏教で悟りを開くということは、心を高める、人間性を向上させる、心を美しくするということと同義です。つまり、人間性が高まっていく、心が美しくなっていく、その最終、最高のレベルを「悟りの境地」という訳です。その悟りを開くための方法として、お釈迦様は「精進」ということを言われています。悟りを開くためには、この精進をしなければならないと言っておられるのです。
 いかがでしょうか、あれほどの功績が全て悟りを開く精進の一貫だと考えると、年齢を超越して社会貢献をなさった理由が分かります。

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