生成AIで世界はこう変わる

 あまりコンピュータに関しては詳しくないが、チャットGPTを始めとする生成AIの話題が新聞等に取り上げられない日はなく、否応にも関心を持たざるを得ない。高度技術を駆使した犯罪の増加から、技術の進歩に人間の倫理が追い付いていなくて、これ以上技術だけ先行して欲しくないと願っている一人だが、それは単に高齢者の観念論だろう。
 幼児期からゲームに親しんだ方達からしたら、ますます面白くなってきたのかもしれない。そんなゲーマーの一人である東京大学松尾研究室の今井翔太氏の書いた本が爆発的に売れている。  
 表題の本 (発行社SB新書) だが、今年の1月15日に初版を出して7月11日には第9刷まで発行されている。東京大学に進学する位だから、家ではゲームなどをせずに勉強に明け暮れていたのかと思ったら、ゲームの世界大会で入賞する位の腕前だそうだ。国のAI座長を務める松尾教授もゲーム大好き人間というから驚く。
 さて本文だが、2013年にオックスフォード大学が、「雇用の未来-仕事は機械化によってどれくらい影響を受けるのか?」で全702個の職種についてAIやロボットによる影響をどれくらい受けるのかを分析している。上位25位までは次の通りだ。電話販売員、不動産の審査、手縫いの仕立屋、数理技術者、保険業者、時計修理工、荷物取扱人、税金申告代行、フィルム写真処理、銀行の新規口座開設担当者、図書館秘書の補助員、データ入力作業員、時計の組立・調整工、保険金請求・契約代行、証券会社の一般事務員、発注係、ローンの融資担当者、自動車保険鑑定人、スポーツの審判、銀行窓口、金属等のエッチング・彫刻業者、包装機等のオペレーター、調達係、荷物の発送・受取係、金属加工だ。
 また2023年にOpenAI社とペンシルべニア大学が共同で発表した論文、「GPTは汎用技術である-大規模言語モデルが労働市場に与える影響についての早期の見解」では、AIの影響を受けやすい職業25種は次の通り。通訳・翻訳家、サーベイ研究者、詩人・作詞家・クリエイティブライター、動物科学者、広報スペシャリスト、数学者、税理士、金融分析者、会計士、ニュースアナリスト、記者・ジャーナリスト、法務秘書、公認会計士、インターフェースデザイナー、臨床データマネージャー、エンジニア、グラフィックデザイナー、検索マーケティングストラテジスト、投資ファンドマネージャー、金融マネージャー、保険鑑定人、損害鑑定人、文書取扱人、校正者、気候変動アナリストだ。
 特に言語生成AI周辺の技術に焦点を当てているところが先の論文と異なっているところだ。 
どちらの論文にも見事に、税理士の仕事が入っているところが面白い。それはそうだろう、税金の申告は生産的ではないので省力化されて当たり前だ。ただ色々な判断業務は残ると思っている。この本の中にも機械化、AIによって仕事が奪われるとは限らないという記述がある。
 『実は先ほどから「AIによって仕事が奪われる」という表現は一度もしていません。ここまで議論をしてきたのは、ある職業が影響を受けやすいか、受けにくいかというものです。
 生成AIなどの技術による労働への影響を考える場合、その技術が「労働補完型」の技術なのか、「労働置換型」の技術なのか、分けて考える必要があります。労働補完型の技術とは、人間の労働を補助し、その労働自体を楽にしたり、生産性を上げたり、新しい仕事を生み出すきっかけになるような技術です。一方の労働置換型の技術とは、文字通り人間の労働を完全に置き換え、人間が介在する余地を無くしてしまうような技術です。』
我々の仕事の中でもこの見極めが重要になる。
税理士・中小企業診断士 安部春之

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