カネが大好き

 年末から年始にかけて、世間を大きく揺るがしたのがゴーン日産自動車元会長の国外逃亡事件だろう。逃亡劇はまるで映画のようだ。日本の検察もなめられたものだ。日本的情緒に基づく信頼関係をよりどころにしていると、こうもスキが多いものかと驚く。しかもレバノンとは犯罪人引き渡し条約がないと聞けば呆れてモノが言えない。そんな人が経営者であった日産自動車。事件のとばっちりで日産車の購入激減に及ぶかもしれない。車を購入するのなら、カネが大好きという社長が経営する会社ではなく、車が大好きという社長が経営する会社の車を購入したいと思うのが必然だからだ。

 社長の経営方針は開発部門にも、製造ラインにも浸透するのだろう。車よりも、カネに関心がある経営陣と、その暴走を止めることが出来なかった取り巻きの人たち。それがゴーン事件で定着してしまった日産自動車のイメージだ。今回の事件はそれにさらに拍車をかけた。経営破綻で最初に失われるのは企業文化であり、その後にはカネのみを指標とする経営に変質せざるを得ないのだろう。

 不動産業界も同様だった。バブル崩壊で、不動産投資をする人たちと、それを仲介する業者は壊滅状態になってしまった。その後に登場したのがファンドという人たちだ。バブル以前、いやバブル時代であっても、不動産は、不動産が大好きという人たちが扱っていた。しかし、バブル崩壊後は、アセット・マネージャー、プロダクト・マネージャーという人たちが不動産を利回りで管理するようになってしまった。寄ってたかって手数料を中抜きするのだから、利回りを高くしなければ商品にならない。フリーレントという方法もカネが大好きな人たちでなければ思いつかない手法だ。数か月間の賃料を無償にして、名目的な賃料利回りを高く見せることで、商品価値の見栄えを良くして転売を目論む。
 

 弁護士の増員による弁護士業界の破綻の後に、カネが大好きという人たちが登場し、過払い金返還請求事件ブームが出現した。裁判手続きでも成功報酬は回収額の10%というのが業界の相場だが、過払い金請求事件では、単なる事務手続きについて回収額の20%の報酬を請求する。これは不動産業界と同じ運命だったのだと思う。本来、全ての商品は、その商品が大好きという人たちが扱うべきだと思う。仮に、弁護士業だったら、依頼者の利益を守り、弱者を救済し、あるいは法律の議論が大好きという人たちが取り扱うべきだ。

 税理士の場合も、税法の理屈が大好きで、事業経営者の相談に応じるのが大好きという人たちが税理士事務所を経営すべきであって、カネが大好きという人たちが税理士事務所を経営すべきでない。病気になったら、病気を治療するのが大好きで、医療という専門知識が大好きという医者にかかりたいと思う。(エヌピー通信社発行、税理士新聞、元年5月15日号、税理士・公認会計士・弁護士、関根稔先生のコラムに一部加筆し編集しました)

 
 関根先生は、苦労をして公認会計士資格を取り、その後弁護士資格を取った方だけあって、洞察力がすばらしく、私はときどきこの方の記事の切り抜きをしている。今回のゴーン国外逃亡事件で思い出し、使わせて頂いた。
どの業界においても、社長自身がその仕事を本当に好きでやっているかどうかは肌感覚で分かる。商品を買うなら、本当にその仕事を天職と思って打ち込んでいる方から買いたいものだ。

 税理士のくだりも、まさにその通りだと思う。年初にあたり、改めて自らの仕事を心から好きになる意義を考えさせられた。


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