侍ジャパン、北京では無冠、東京では金

 東京オリンピックが終わった。数々の名勝負があったが、私が特に注目したのは野球である。
 プロ野球で全く監督経験のなかった稲葉監督が、少ない練習時間にもかかわらず、星野監督でさえつかめなかった栄光の金メダルを、どうやってつかめたのか?
 選ばれた選手はオールスターの時のような、両リーグを代表する名選手ばかりではなかったはずだ。24名の選手の選考基準はどういうものだったのか。選んだ選手に持てる力の最大を発揮させるようなコツが何かあるのだろうか。これは経営にも通じることではなかろうか。 
 指揮をとった稲葉監督は「スピード&パワー」を掲げ、就任から4年をかけてチームを作り上げた。「金メダルだけを目指して全力でプレーする熱い選手を集めたい」「選手はみんなチームでシーズンを勝つためにやっている。ふだんから日本代表で世界一になるのを目標にはやっていない。それはメンバーを選ぶ上ですごく難しい。日本代表に対しての思いが強い選手じゃなければ国際試合は戦ってはいけない。日本代表で勝ちたいという思いが強い集合体でありたい」と語っていた。
 短期決戦の国際大会ではチームの結束なくして勝利はない。「自分が結果を出せばチームのためになるという考えの選手もいる。でも一番大事なのは、自分を犠牲にしてでも本当にチームのためにどうすればいいかを考えているか。選手が自分の役割を果たしてくれるチームにしたい」この自己犠牲の大切さは稲葉監督が就任以来繰り返し選手に伝えてきた。象徴する場面が決勝の1点リードの8回にあった。ノーアウト一塁で打席が回ってきた坂本は、みずから「(バントで) 送りますか?」と聞いてきた。
 このような話は何かの本で読んだことがある。そうだ稲盛和夫さんの書いた本に書いてあった。
 「私は人生や仕事の結果というものは、『考え方×熱意×能力』という方程式で決まると考えています。私は一流の大学を出たわけではなく、地方の大学を卒業しました。だから『能力』という点では決して一流とは言えないかもしれません。しかし、誰にも負けない努力をするという『熱意』は、これからの自分の気の持ちようでいかようにもなるのではないかと考えました。先ほどの方程式によれば『能力』とこの『熱意』を、足し算ではなく掛け算で計算するわけですから、どんな一流大学を出た人よりも、『能力』は多少劣っても、ものすごい『熱意』を持った人の方がすばらしい結果を残すことができるはずだと私は思うのです。~中略~これに、『考え方』が掛かってきます。これこそが私が常に言っている経営哲学、または人生観です。『考え方』には、マイナス百からプラス百まであります。~中略~
 「そのことで、私はたいへん悩みました。そして『京セラフィロソフィ』に同調できない人に対しては、『君の考えと私の考えは合わない。たとえ優秀な一流大学を出てきた人間であろうと、考え方が合わなければしようがない。他の会社に行ってもらっても結構だ』と言って辞めてもらうこともありました。思想を分かち合えない。哲学を分かち合えない人には辞めてもらってでも、私は全従業員でフィロソフィを共有しようとしたのです。 
 『われわれはこういう考え方をすべきだ』ということを従業員に対して押し付けると、必ず従業員たちから、思想・哲学・考え方を強制するのかという反発があります。私自身にも、確かにそれは行き過ぎではないかなと思う気持ちも少しはありました。しかし、悩みながらも、何とか『京セラフィロソフィ』が浸透するような方向に持っていったわけです」
 まさに稲葉監督が行った考え方の共有である。


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