バカかしこ、かしこバカ

 先日、初めてこちらの事務所の担当になったという、会計事務所を取り巻く業界の、ある一部上場企業の女性が東京から来た。税理士事務所の営業担当だという。30歳前後で、すらっとしてマスク越しには綺麗な方で、私と副所長とで対応をした。公認会計士の資格を持っているようだ。昔はこんな監査法人に勤めていた。その後、別の大手コンサルタント事務所に勤め、その後に、今の会社に勤めだしているという。そこの会社とは以前から知り合いなので、気楽に話してくれたのかもしれないが、かなり気になった。曰く、いくつか会社を変わって今の条件が一番良くなった。今は楽だ。そしてこちらが聞きもしていないのに、この名前の高校を出て東大に入った、今こんな勉強をしている、子供がいる等々。こちらの事をわずかしか尋ねない。こちらに有益な情報の提供も少ない。

 私は、30歳前後で3社も変わってきたなら、あまり会社の役には立たなかったのだろうな、東大というラベルで仕事をくれるお客さんというのはどんな方がいるのだろうな、というような事を考えながら上の空で聞いていたので、後で副所長に注意された。所長はあの人を嫌いでしょう。全く興味がないという態度で聞いていましたよ、と。(別に嫌いという程でもなかったが、そう見えてしまったとは・・・・反省)

 私としては、東大卒をねたみで、どうこう思う訳ではなく、以前、私どもの経営研究会の講師をお願いしたこともある、某都市銀行の専務までなったことのある人は、東大を首席卒業したと聞いたが、全く東大くささがなかった。

 そんなことを考えていて想い出した。既に亡くなったが、昔、商売科学研究所という会社を主宰されていた経営コンサルタントの先生が、面白いことを言っていた。

 人には4種類のタイプがあるよ。それはバカかしこ、バカバカ、かしこバカ、かしこかしこ、だよと。バカバカというのは、バカそうに見えて、本当にバカな人、かしこバカというのは、かしこそうに見えてバカな人、一番いいのはバカかしこなんだよ、と。今の言い方で言えば、IQが多少低くてもEQ (心の知能指数) が高い人のことを言うのではなかろうか。

 私は頭が悪いからそんな難しいことを言われても分かりません、とか言いながら、こちらの気持ちを全て分かってくれるような人は、営業として最高だ。営業だけではない、どんな部署においても最高だ。偉そうぶらないので人に好かれるし、相手にも自信を与えることが出来る。

 中身の少ない人間ほど背伸びをして、私はこんな学校を出た、こんなことをして来た、こんな人と知り合いだということを話すことが多い。気を付けなければいけない。相手の関心は別の所にあることが多い。人は自分に一番関心を持ってくれる人に好意を感じるものだ。

 私どものお客さんのある農家の方のところに、建設会社の営業マンが毎年田植え作業を手伝いに来る。そのお客さんは街中に広大な田んぼを持っている。いくら機械化されたといえ一人では大変だ。ときどき飲みにも一緒に行くようで、お客さんにとって弟分のような存在だ。その建設会社に2棟のマンションを発注した。このように顧客と営業マンという関係を超えて、弟のように可愛がって貰える関係性が最高だろう。

 営業の仕事は特に人柄が問われる。モノを売り込む前にまず信頼関係を築く必要がある。相手にどうしたら役に立てるか、心からの誠意を示すことが重要だ。そのためには、自分の自慢話はせず (むしろドジ話をして)、一旦バカになり、これを知りません、これをどう考えたらよいか教えて下さい、という謙虚さが必要ではなかろうか。

 税理士・中小企業診断士 安部春之

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