値上げは経営の問題

 最初にあるコラムを紹介したい。
 「値上げは『営業の問題ではなく経営の問題であり社長の問題である』。日本製鉄の橋本英二社長の発言として財界オンラインの2月7日付の記事で引用されていた。刺さった経営者は多いようで、何人かが発言に触れていた。インフレの流れが顕著になる中、営業現場はなかなか価格を上げられず苦しんでいる。値上げは経営の根幹に関わる問題であり、決断が社長の仕事だ。考え方に共感が広がっている。
これまで価格改定は営業の仕事であったということになる。社長の決断で大きな値上げをすることも少なかった。日本で長くデフレが続いたことが影響している。~中略~ 
経営の判断という意味では、価格と同じく大きな注目を集めているのが賃上げの流れだ。今年の春季労使交渉は30年ぶりの高さとなった。問題はこうした賃上げの流れが今後も続くのかどうかだ。
現状では物価上昇が賃金上昇よりも先行し、勤労者の実質賃金は減っている。賃金が物価に追い付かない状況が続く限り、消費を抑制することになる。穏やかなインフレは、経済には本来は好ましい影響を及ぼすことが期待される。ただ、十分な賃上げを前提としている。もちろん、企業は賃上げを日本経済のためにするわけではない。深刻な労働力不足にどう対応するのか。インフレ下で、労働者への配分が縮小していいのか。こうした課題への解決が賃上げなのである。『経営の問題あるいは社長の問題』として、賃上げにどのような決断が下されるのか、各社の動きを注目したい。」日経流通新聞 令和5年10月30日付、伊藤元重氏
 はがきが85円に、封筒が110円に値上げされるなど、世の中は、今年も値上げラッシュだ。皆様の会社ではどう対応されるのだろうか。
賃上げも昨年、大手が大幅に引き上げたが、中小はそれ程引き上げられなかった。それもそのはずで、なかなか値上げが難しいからだ。
そこで我々が今しなければいけないのは、生産性の見直しだ。その仕事は省力化できないか、無駄な動きがないかを徹底的に見直すべきだ。 
そしてその事業や得意先は、本当にそのまま続けていくことが出来るかどうかを考えなければいけない。その上で得意先と交渉をすべきだ。交渉事は腹をくくっているかどうかで大きく異なってくる。相手が、これ以上値上げ要請に応じなければ仕事をしてくれなくなるな、と感じてくれれば値上げに応じて貰い易くなるのではなかろうか。
 私の考える生産性を測る指標は次の通りだ。
正社員一人当たり平均をすると年収は500万円と考えてよい。500万円÷12か月÷(22日―5日)÷8時間=3,063円/時間 となる。
ここで5日間はお客様にチャージできない時間である。そして時間当たり3千円かかるとすると、それと同額が販管費として別にかかる。 
たとえば会社負担の社会保険料(14%)や、交通費、交際費、家賃、光熱費等である。つまり時間当たり6千円稼いで始めて、その人の人件費分を稼いだと言える。こんな働き方が出来ているか。生産性の低い社員がいないかを確認すべきだ。その顧客を維持をするのにどれだけの工数がかかっているかも知るべきだ。パートは一人250万円としてざっくり同じ計算をしたら良い。社員一人当たり、粗利益を年間1,000万円以上稼ぐことが何業においても必要になる。
 ちなみに国税庁発表の、令和4年分民間給与実態統計調査では、平均給与は458万円(男性:563万円、女性:314万円)だった。
値上げができず、生産性も上がらない事業を続けることで、社員給与も上げられず、優秀な社員が辞めていく、負のスパイラルを防ぎたい。

税理士・中小企業診断士 安部春之

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