会話力は質問力

 お正月に免じて頂き、自分の能力不足を棚に上げて、日頃思っていることを書いてみたい。  
 誰かに教えて貰った訳ではないが、この歳になってようやく会話のルールが分かってきた。
 昔から、自分の能力不足を感じていたので、コミュニケーションや雑談に関する本は沢山買って読んだ。また何でも経験を積まないと話に入れないと思っていたので、色んなことに首を突っ込んで来た。しかし会話力に関しては全く上達していない。いまだに自分に関心のある話は聞けるが、関心のない話の糸口が掴めない、気さくに質問ができない。
 お客さんによっては、何故あんなに話を盛り上げるのが上手なのかと、聞き惚れることも多い。グッと乗り出して話を聞いていたら、それが後で冗談を言うための前振りの話だったりして、何だそうだったのかとドッと笑える。達人は話の落ちまで用意をしている。少しはこのように、落ちを用意できれば、どんな話でも盛り上げられるはずだが、その足元にも及ばない。
 お正月に日帰りで田舎に帰って、久しぶりにお昼を一緒に食べた。兄や甥とはよく話をしたが、声をかけられない人がいた。長い間会っていなかったので、3人ほど離れて座っている姪の主人の名前を忘れた。確か弘さんだったと思うが、間違っていたらどうしよう、今さら聞ける訳もない。名前を呼びかけないと会話が出来ない距離だ。一緒に食べていながら、全く質問が出来なかった。彼からも会話に入って来なかった。何も話しかけて来ない。会話が盛り上がらない人の共通点は、こちらが何か質問をしなかったら、話をしないことだ。それでいて、中には自分に対して何も聞いてくれない、関心を持ってくれないと嘆く人もいる。
 長い経験の中で私は、会話はお酒の注ぎあいと同じだと感じている。コップが空になっているのを見つけて、5回注いであげたら3回は必ず返して貰える。会話も同じくまず質問から始まる。酒飲みとしては、コップにビールを注いで貰ったら、その間に相手のコップを覗き見るのがルールだ。大概はコップが空っぽになっていて注いで欲しいときに注いでいることが多い。
 また、最近ゴルフ行っていますか、と聞いて来たら、ある程度答えた後に、ところで、○○さんは最近ゴルフに行っていますか、調子はどうですかと聞くのがルールだ。これも自分がゴルフの話をしたいから、先に質問をして来ているケースが多い。ビールの注ぎあいと同じだ。
 正月番組で、ブラタモリと鶴瓶の家族に乾杯のコラボレーション番組をしていた。
 タモリが言っていた。この二つは全く違う番組だ。ブラタモリは縦に話を掘り下げて行く番組だ、人物、歴史、地層とか。それに対して、家族に乾杯はどんどん横に広げて行く番組だ。電話して、今から行くわ、となるのだと。
 どちらも面白くて好きだが、特に鶴瓶の家族に乾杯が好きだ。鶴瓶は人を傷つけない笑いのとれる会話の天才だ。番組を見ていて最初は、何故初対面の人と簡単にあれほど仲良くなれるのかと不思議で仕方が無かった。そのうち、質問の定番パターンが読めてきた。次のような質問が出たら、水戸黄門の印籠と同じで、やっぱり今回も極意が出たかと一人喜んでいる。
 それは、誰に対しても満面の笑顔で、旧知の友達のような口調で聞く。
 お父さん、お二人はどこで知り合わはったの?どちらから付き合おうと声をかけたの?娘さんは今どこに住んではるの?そこで何をしているの?えっそうなの?それなら今から会いに行こうかな?こんなことを聞かれれば誰でも相手を好きになるはずだ。会話が弾むのが分かる。
 今年も多くの方から、沢山のお話を聞いて、少しでも自分の会話力を高めていきたい。
                                                                 税理士・中小企業診断士 安部春之

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