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汚れたシャッターチャンス 【火サスどうでしょう】

 町田まちだ 純太じゅんたはスタジオマンとして3年を過ごし、この春ようやく憧れのカメラマン事務所に就職が出来た。

 純太の意気揚々と出勤する背中に桜の花びらがエールを送るように舞っている。

 それから三か月が過ぎ、グラビアや写真集で活躍している大御所カメラマン瀬久原せくはら 邦大ほうだいのカメアシになる事が出来た純太の日々は慌ただしくも充実していた。あちこちの現場に行き、一流の仕事を間近で目撃していつまでも興奮していた。もちろん良いことばかりではなく、失敗して怒鳴られることも何度もあった。それでも全く挫けなかったのは瀬久原先生を尊敬していたからだった。

 半年を過ぎた頃、純太の足取りは重たかった。出勤時に通る公園の銀杏の葉がそっと慰めるように撫でては落ちていく。

 仲良くなった若手編集者から瀬久原先生に関する妙な噂を聞いたのが始まりだった。純太は「いやいやいやーあの瀬久原先生に限ってそれはないわー」と笑っていたし、全く信じなかった。同業の誰かが妬みやっかみで流した根も葉もない噂の類だと思った。

 しかし。

 人気に翳りが出始めたアイドル・河合かわい 奏子そうこの写真集の撮影の最終日。瀬久原先生が管理しているハコスタでの事。先生と奏子を現場に残して、スタッフ全員が撤収してしまったのだ。純太は訳が分からず「先生と奏子ちゃんは帰らないんですか?」と近くにいた先輩アシスタントに聞いたが、「いいのいいの」と言ってすぐにスタジオを出るように促されたのだった。

 純太は何か胸騒ぎがしていったんは事務所に戻ったふりをして、ハコスタの近くに待機していた。

 そして一時間後に瀬久原先生と奏子が出口から出てきた。

 奏子の髪は乱れ、目は明らかに泣きはらした後だった。

 瀬久原先生はこれまで見たこともない下卑た表情を浮かべ、財布からお札を取り出して奏子のはだけたシャツの胸元へ押し込んだ。

 奏子は弾かれたようにどこかへ走って行った。

 純太は今目撃したことをもう一度確認するように脳内で再生した。ゆっくり深呼吸をして、瀬久原邦大へと近づいていった。

「なんだ? 純太、まだ帰ってなかったのか?」

「はい…」

「じゃあ俺の車で送ってやるよ」

「いえ、あの、それより、奏子ちゃん泣いてたみたいすけど…」

「チッ、なんだ、お前見てたのか。何でもねえよ」

「何でもなくないすよね」

「うるせえな。俺が何でもねえって言ってんだろうが」

「俺、先生をすげー尊敬してるんです。んで、変な噂流されてて、悔しくて、でも全然あり得ないから笑い飛ばしてたんすよ…」

「ハイハイ、わかったわかった。ちょっと一杯付き合え」

 そうして純太は瀬久原に付き合い、ベロベロに酔うまで酒を酌み交わした。


 翌朝、純太はベッドの上で目覚めた。頭痛がする。「ここはどこだ」と考える。自宅ではない。「たぶんホテルだな」と思う。体を動かすと弾み過ぎるバネのせいでダブルベッドが揺れる。そうしてようやく隣に誰かがいるのに気がづいた。

 河合奏子だった。

 純太は一気に目が覚める。どうやら奏子は全裸だ。自分も真っ裸になっていた。何がどうなっているのか全くわからない。瀬久原と一緒に近くにある瀬久原行きつけのバーに行って飲み始めたところまでは覚えているが、そこから先の記憶がない。純太はすっかり気が動転してしまった。

 しかも、河合奏子は息をしている気配がなかった…。

※この物語はフィクションであり、実在の人物や団体、名称等とは一切関係がありません。


今回は ↑ こちらの企画に参加させて頂きました!

シリアスに挑戦しようとしましたが、めっちゃくちゃ気分がブルーになってきたので、路線変更いたしました(笑

締め切りまでには間に合いましたが、

ピリカさん、さわきゆりさん、なんかゴメンナサイ!!💦

そして、毎度ワクワク企画をありがとごじゃいます!

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