噺家殺人事件パート4【ショートショート】
今日は春の新真打の昇進披露興行の初日。
本当なら寄席は大入りで隅々までおめでたい空気が充満しているはずだった。
出番もないのに立前座の小林家 けいじゅに呼び出された 船越亭 歌さすが寄席の前に出来た人だかりが客ではなくただの野次馬だと認識するのにそうは時間がかからなかった。
楽屋に入ると顔面蒼白のけいじゅが状況を説明してくれた。
トリを務めるはずだった戸辺内家 一生は真打昇進と同時に改名することになっていた。しかも披露目の初日の今日まで新しい芸名は明かさないという突飛で異例な事をするので話題にもなっていた。
そして一生は新しい名前を発表した後すぐに大勢の御贔屓の前で突然死したのだ。
警察も含めて死因がわからないというのに、我らが歌さすには事件の全貌が読めたようだった。
ーーー 下を覗けば波が岩場にぶつかって砕け散る、崖っぷち。
悲し気な表情でけいじゅに問う船越亭 歌さす。
「けいじゅ、あいつの新しい名前をもう一度聞かせてくれ」
どうしてこんな場所に連れて来られたのか困惑気味の小林家 けいじゅ。
「た、確か…人気が出るようにと願って兄さんがこさえた名前で、えっと、堂雅亭 わんにゃん…だったと思いま…」
「それだよ!」食い気味に叫ぶ歌さす。
身体をびくっとさせたけいじゅを横目に歌さすが続ける。
「結局のところ、野郎は売れたい余りにやりすぎちまったのよ。やりすぎた挙句に大勢の御贔屓筋にひかれてしまった。これは事故よ。客だけじゃねえ、寄席のみんなにめったくそにひかれてしまって、轢死だったのよ」
一瞬「へ?」という顔をするけいじゅ。
そこへ歌さすの相棒的な存在、 聖母乃家 子守歌が現れた。
「歴史に名を残したかもしれないですね」
聞こえなかったふりをする歌さす。
汗が止まらないけいじゅ。
もう一回言おうかどうしようか迷っている子守歌。
ーーー ドローンカメラが崖っぷちの三人から徐々に遠ざかる。
キャスト
状況を説明する噺家: 立前座の小林家 けいじゅ
謎を解く噺家: 船越亭 歌さす
やりすぎた新真打の噺家: 戸辺内家 一生改メ堂雅亭 わんにゃん
謎が解けた後に花を添える噺家: 聖母乃家 子守歌
脚本: ぼんやり亭 らじ男
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