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ともだち #アナグラム歌会

 小学校五年生の始めにナカタという転校生がやって来た。

 ナカタは運動をしてはいけない病気で体育は休むし休み時間にドッチボールも出来なかった。だから大抵教室で一人で本を読んでいた。

 ある時、担任のアライ先生がボク達三人を呼びつけて、ナカタと友達になって欲しいと頼んだんだ。

 ボク達と言うのは、ボクとトシとダイスケで、この三人はいつも一緒にいる仲良し三人組だ。

「アイツだって、わざと手加減されたら嫌だと思う。それにオレたちがつまらないと思うくらいなら一緒に遊ばない方が良いって思うに決まってるよ。オレたちもアイツも一緒に遊んで一緒に楽しくならないとダメなんだよ」

 トシはいつも面白い事ばかり言っているし笑いのセンスは三人の中で抜群だけど、真剣な時は物凄くしっかりしたことを言うのだ。

「じゃあ、どうすれば良いんだよ」とダイスケ。

「アイツが好きなことをオレたちもやってみるんだよ」とトシが答えた。

 それがつまらなかったらどうするんだとダイスケが食い下がったが、そんなのやってみないとわからないだろと言われて黙ってしまった。

 ボクも後ろめたい気持ちになった。そしてトシの意見に乗っかる事にした。

 ボク達三人はナカタの家に遊びに行ってみた。

 いらっしゃいと優しそうなお母さんが迎えてくれて、ナカタの部屋に通してくれて、ケーキとジュースを出してくれた。それだけで三人はウキウキしていた。

「ナカタ、お前、いつも何して遊んでるんだよ?」

「んとね、最近はアナグラムかな」

「なんだよそれ?」とトシが他の二人の気持ちも代弁する。

「noteのフォロワーさんの間で流行ってるんだけどさ」

「ノート? 何それ?」

「まぁ良いよ。説明すると長くなるから省くけどさ、例えば、トシくん、君の名前、トシヒロだろ? この文字を入れ替えて白と火(しろとひ)とか、城と碑とか、別の意味を持たせる遊びだよ」

 おおおお! と三人で見たことも聞いたこともない、なんだか大人の遊びみたいな遊びにハマって夢中になったんだ。暗号を解くスパイになったみたいでドキドキしてとても面白かった。

 でもダイスケが最初に飽きてしまった。たぶん頭を使うことを長くやれない可哀想な奴なんだと思う。だから、四人でゲームをして遊んだ。ナカタの部屋にはあらゆる種類のテレビゲームが揃っていたし、ナカタは話し方がキザって言うか、ちょっとイラッとするところがあるけれど、結構良い奴だった。三人ともそう思ったに違いないんだ。

 その日からいつも四人で話したり遊んだりするようになった。みんなで新学年を迎える事が出来るものだと思っていたけど、ナカタは六年生に進級する前にまた違う学校へ転校する事になった。


 ナカタがボク達の学校に来る最後の日。

「何度も転校して来たけど、君たちと遊んだ時が一番楽しかったよ。ボクと本当に仲良くなってくれたのは君たちが初めてだった。たぶん、次の学校に行っても君たちみたいに仲良くなれる友達を作るのは難しいんじゃないかな」

 そう言ってナカタは顔を伏せた。おそらく泣き顔をみられたくなかったんだと思う。

「じゃあ…またな」

 ナカタは一人一人と握手をして一人一人に手紙をくれた。


 ナカタが帰った後、ボク達はそれぞれの手紙を開けてみた。

 手紙なんて貰ったのは初めてだった。一体何が書いてあるんだろうと思ったら……。

「手がかり?」トシが不思議そうな声をあげる。

「足と手?」今度はボクの番。

「九九慣れよう?」最後にダイスケが奇声を出す。


 学校帰り、意味不明のナカタの手紙の謎を解くためにトシの家に集まった。

 全然わからないまま何時間も過ぎた。

 そろそろ夕飯の時間になる。

 もう家に帰らないといけない。

 諦めかけたその時にトシが声をあげた。

「あっ!」

「どうしたトシ!?」

「コレ、アナグラムだよきっと!」

「え!? そうなの?」

「そうだよ、アイツ好きだったじゃん、アナグラム、ノートのノートに書いてやるとかなんとか…えっと、こうして…」


てがかり あしとて くくなれよう


 トシが全部ひらがなに変えて紙に書く。それを一文字一文字切り取って並べていく。

「オレ、解っちゃった!」

「なんだよ! トシ、ずるいぞ、オレ達にも教えろよ」

「よーくみてろよ! な、か、よ、……」


なかよくしてくれてありがとう

仲良くしてくれて、ありがとう。


 

 春休みになるとボク達三人はナカタに会いに行き、いっぱい遊んだんだ。



※ ※ ※

 

 これはアナグラム歌会企画への参加作品です。

 こう言うので良いのかわからないのですが、皆さん楽しそうに参加されているので、書いてみました。個人的に詩はハードルが高いので、こう言うショートストーリー(ハードルが低いわけではないけれど)仕立てにしてみました。楽しく書きました。

 企画者のみえるさんと、

 いっぱいすごい作品を読ませてくれた(たぶん締め切りまで読ませて貰える)皆さんに感謝。


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