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014【ミンスキーと〈不安定性〉の経済学:MMTの源流へ】を読んで

書籍情報

書籍名:ミンスキーと〈不安定性〉の経済学:MMTの源流へ
著:L・ランダル・レイ
訳:横川太郎、鈴木正徳
発行日:2021年3月

内容判定

●読みにくさレベル……【3.5】解説書ではあるがある程度の知識を求められる
●参考文献……注付き、巻末に35P程度の参考文献一覧有り
●内容の偏り……新自由主義に疑いの目を向けながら
●内容ページ数……約250P

概要

 この本はハイマン・P・ミンスキーをわかりやすく説明するという趣旨で書かれている。
 銀行の役割、政府が果たすべき役割、貧困と失業に関して、現在の資本主義に対する問題意識……これらに焦点を当てながらミンスキーという経済学者の視点で解説されている。内容としては経済学と金融論で、説明や解説自体はわかりやすいが、ある程度の知識を求められる専門的な内容になっている。内容の方向性自体は世界金融危機後の経済学を振り返るという近年よく見られる経済学関連書籍と変わらないが、そこからミンスキーを引き合いに出すことでよくある経済学とは違う視点と強い説得力が生み出されている。

どういう人が読むべきか

 一通りの経済学関連書籍を読んだ人が別の視点を取り入れるために読む本としては面白いと思う。ふと手にとるような本でミンスキーを扱っているものはそこまで多くないし、いわゆる主流な経済学者とは違う視点である。
 表紙には「MMTの源流」という今流行の言葉が目立つが、MMTについて書かれている本ではない。ざっくりと言えば、この本の著者がMMTを主張している経済学者で、その著者に影響を与えた(師事していた)のがミンスキーである。そしてこの本はあくまでミンスキーの入門解説書という立ち位置である。以上からこれはMMTを直接的に解説している本ではないが、MMTについて深く知りたいというのであれば、その根底にあり考えの本流となるようなミンスキーについて学ぶこともオススメできる。

キーワード

・マネーマネージャー資本主義
・金融システム
・カジノ資本主義
・金融不安定性仮説

以下、感想

 この本はその他多くの経済学関連書籍と同じく世界金融危機に対するアンサーとしての内容が書かれている。もちろん似たような内容の本自体は数多くあるが、ミンスキーという視点から書かれている点は面白い(読みやすい経済学の本としては目新しい気がする)。手に取りやすい経済学の書籍は基本的には主流の経済学という視点で書かれている本が多いし、近年はその問題点を指摘するような内容であったとしても、あくまで主流な道から逸れないようにどう修正するべきか、という内容である場合が多い。しかしミンスキーの立ち位置は主流からは少しズレている(私の印象では)ので、その点において大胆な主張につながり面白かった。サブタイトルにあるMMTにはほとんど触れられていないが、ざっくりと大きな政府論だと読み下すと親和性があるというか、銀行業務に関する話の中でもMMTにつながる発想は垣間見える。
 著者も世界金融危機以降の景気回復がその利益全て最上位の人たちの手に渡っているという格差の問題に触れている。これも多くの経済学関連書籍では再分配とインフラや教育、医療への投資という模範解答が解決の糸口とされるが、ミンスキーの視点からは政府が

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