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本屋による出版〜3/5発売『発酵する日本』印刷立ち会いツアーの記録〜

青山ブックコミュニティーの松下大樹です。この度、当コミュニティーで「note部」が発足しました。本と本屋について、様々な活動や思いを発信していきます。

▼青山ブックコミュニティーとは

初回の投稿は、印刷立ち会いツアーについて。まずは、こちらをご覧ください。

どぉーんという表現が相応しい謎オブジェ—実はこれ、発酵食品なんです。『発酵する日本』は、全国を旅して出会った発酵文化の写真集。今回は、この本が出来るプロセスを共有することで、その知られざる世界に少しでも興味を持っていただけたら嬉しいです。



本屋が出版を始める。東京・表参道の青山ブックセンターが、新レーベル“Aoyama Book Cultivation”を立ち上げた。それは、「自分たちで作った本を自分たちで売る」という試み。記念すべき第一段企画『発酵する日本』の印刷に、青山ブックコミュニティーの仲間と立ち会うことができた。

松本駅アルプス口からタクシーに乗り、19号線へ出て北上すると、左前方に白く連なる飛騨山脈が見える。運転手さんによると、今年は暖冬で雪がほとんど降らず、傘代わりにタクシーに乗ってくれる人も少ないとのこと。奈良井川に架かる新橋の脇を通り過ぎると、右手に赤煉瓦の建物が現れた。創業65年、藤原印刷さんの工場だ。


出版形態へのこだわり—本屋はもっと儲けるべき


今回、ここを訪れたのは、“Aoyama Book Cultivation”から刊行される『発酵する日本』の印刷現場を見学するため。立ち会いの前に、青山ブックセンター山下店長と著者・小倉ヒラクさんから企画説明があった。

トークショーでの対談をきっかけに、「本屋がもっと儲けられる仕組みを作ろう」という話になり、青山ブックセンターによる出版企画が始動した。通常、本を作る際には、まず出版社があって、本を書く著者、本を作る編集者・デザイナー・校正者がいて、それをプロダクトに落とし込む印刷・製本会社があって、本を届ける営業、本を卸す取次、本を売る本屋がいて……一冊の本が読者に届くまでにたくさんの関係者がいるため、当然本屋の利幅は小さくなってしまう。

そこで、今回の「本屋×印刷会社×著者」というミニマムかつチャレンジングな出版形態が誕生した。すなわち、「本屋が本を作って売る」という取り組みである。しかし、これは特別なことではなく、明治・大正時代の本屋は大抵そうであったと聞く。結局のところ、本屋が読者の一番近くにいるのだから、とても理に適っているようにも思える。加えて、このご時世に敢えて「そこへ行かないと買えない」という制限を設けることは、本屋に行くことすら体験として楽しむという意味で、むしろ付加価値になり得るのではないだろうか。


紙へのこだわり—あえて一昔前の報道写真風に


今回、特にこだわったのが、写真集は「写真を集めた本」であるということ。当たり前といえば当たり前だが、原点に立ち返り、「どうすれば、著者の見たもの・体験したことを、読者へよりダイレクトに伝えられるか」という点に注力した。

そのための一つの手段が、紙の選択である。写真集の本文に使用されている「OKトップコート+」は、チラシなどにも使われる一般的なコート紙だが、一昔前の報道写真やグラビアなどによく用いられてきた。本屋の写真集コーナーに足を運んでもらえば分かるが、最近ではざらっとして厚みのある紙(微塗工紙)が使われることが多くなった。微塗工紙に印刷すると落ち着いた雰囲気の見え方になるが、インキが沈んで発色が悪くなるので、今回のように「発酵の生々しさ」を表現したいというケースには向いていない。

そもそも本は、プリンターみたいに一枚一枚コピーしたものを貼り合わせているわけではない。ざっくり説明すると……A4サイズの本を作るのなら、A1(厳密にいうとそれよりも一回り大きい)の用紙に表裏合わせて16ページをまとめて印刷する。印刷された紙を半分に折ってA2、もう一度半分に折るとA3、さらに半分に折るとA4サイズ16ページの小さな冊子(折丁)ができ、この折丁を重ねることで本の形を成す。

今回の写真集は、印刷可能範囲(紙の取り都合)を極限まで生かした「正方形の本」である。そうすることで、本を開いたときに見せるべき写真を大きく見せることができる。製本自体も一番内側(ノド)までしっかりと開くことのできる「コデックス装」を採用したというから、とことん抜かりない。


印刷へのこだわり—伝えるべき瞬間を生々しく


さて、いよいよ印刷がスタート。印刷とは、この世界にある無数の色をCMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック)のたった4色で再現する極めてハイセンスな技術である。印刷物をよくよく観察すると、小さな点のようなもの(網点)を見つけることができる。(紙によって見づらかったり、頑張っても見えない場合もあります。)この網点の大きさをデータ上で(各色0〜100%で)調整することも、印刷会社の、ひいてはプリンティングディレクター(PD)の仕事の一つである。

しかし、いよいよ印刷するという段になっては、この網点のパーセンテージをいじることはできない。(印刷のハンコを出力する刷版という工程で、データ上の作業は完結する。印刷工程に関する説明は割愛します。)だから、印刷の立ち会いでは、責了紙(色調OKを出したテスト印刷紙)の色味を目標にインキの盛り具合を調整し、最終的には人の目で色味を修正する。諸条件によって、想定していた色調と乖離のある印刷結果とならないよう、著者の要望を聴きつつ、用紙との適性を見ながらPDが判断して進行していく。

今回の立ち会いの論点は、「現場の生々しさをいかに表現できるか」ということだった。そのため、単にインキを盛るだけでは表現できない、ヒラクさんが「あの日見た景色」をいかに再現するか。蔵の中など、基本的に暗い写真が多く登場するが、その暗部と暗部の差をいかに表現できるか。どんな難題にも、全力で応える藤原印刷さん。

最初のうちは、ヒラクさんの指示に従って準備印刷(刷り出し)を繰り返していたが、立ち会いを重ねるごとに、まるでヒラクさんが見た世界をトレースしたかのように、ほぼ一発OKが出るようになった。PDとヒラクさんが「網点という微生物を通じて会話する」のを垣間見たようで、思わず心が震えた。それは、作家に寄り添って印刷を全うする今回の出版形態でなければ、できない仕事だったと思う。こうして、体温のある「生々しい」写真集が刷り上がった。


出版新時代の目撃者になろう


『発酵する日本』は、間違いなく出版の新時代を作る。

たった一店舗で、2000部を売る。そんな本を見届けたい。一緒に新時代の目撃者になりませんか?



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▼『発酵する日本』事前予約ページ(3/3まで)


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最後にもう一度、青山ブックコミュニティーについて。3/1(日)0:00より、少しだけメンバーを追加募集します。気になる方はぜひチェックを…!(※3/1追記:追加枠は埋まりました。ありがとうございます。)




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