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みちのく潮風トレイル冒険録16:唐桑半島ソロキャンプ(早馬神社→唐桑大沢駅)

 本題に入る前に、前回の最後に訪れた早馬神社に展示してあった、詩人梶原しげよの詩を再度引用しておこう。

ゆめがあるから 歩む
けわしい道
凍てついた道
吹きすさぶ嵐の道を 越えて
たとえ
見失ったように思っても
決して寂しがらずに……
錯覚の雲が 通り過ぎれば
ゆめは また あらわれる
ひとよ、
あこがれと共に
ただ ひたぶるに進みゆくだけ
きらめきながら 大海をめざす川の
あのけなげさで
「たしかな生」への旅――
ゆめがあるから 生きられる

ゆめ 梶原しげよ

 この詩の、"ゆめがあるから歩む"という一節が、みちのく潮風トレイルをめぐる私の冒険に通じるものがあるような気がして、妙に心に残っている。
 トレイルを歩むにあたっての”ゆめ"とは、第一義的にはもちろん、ゴールである八戸までの全線を歩き通すという目標である。
 しかし、私には他にもいくつか"ゆめ"がある。
 ひたすら歩くという行為はともすれば単調になりがちだが、贅沢な時間の使い方でもある。トレイルを歩いていると、黙々と足を進めながら、頭ではとりとめもなく色々なことを考える。帰りの交通機関の心配や、帰ったらこの冒険記にどんなことを書こうか、などと考えることとあわせて、自分の将来の"ゆめ"についてもぼんやりと考える。その"ゆめ"がどんなものであるのか具体的に述べることはここでは控えるが、歩むという行為を通して自分の人生を見つめなおし将来について考える、みちのく潮風トレイルを歩くことは、私にとってそんな契機にもなっている。
 トレイルで足を動かし続ければ、みちのく潮風トレイルのゴールである八戸に到達するという"ゆめ"に向かって、着実に前進していくことは間違いない。しかし、それ以外の"ゆめ"に向かって、私は歩みを進めることができているだろうか?それはわからないが、この先も、この梶原しげよの詩を胸に秘め、"あこがれと共にただひたぶるに進み"続けていこうと思う。"ゆめがあるから生きられる"のだ。

Day24:早馬神社→御崎野営場

2022年6月11日(土)
 さて、そんな詩人梶原しげよの実家である早馬神社から今日の行程が始まる。2日かけて唐桑半島をぐるっと一周する行程となる。唐桑半島は気仙沼市に属するが、平成の大合併前は唐桑町という自治体だった。
 今回は久しぶりのテント泊、ザックに背負ったテントがずしりと重い。唐桑半島の西岸に沿って南下して行くと、鮪立という名の漁港がある。これで「しびたち」と読むらしい。これまで歩いてきた漁村にも言えることだが、漁業を生業とする集落は農村と比べて個性的な名前の村が多い気がする。何か理由があるのだろうか。

 次の小鯖という集落から先は、通行止めの看板が出ており通り抜けることができない。本吉での教訓から、ルート上の通行情報は事前にきちんと確認して地図に書き込んでおくようにしていたのだが、ここの通行止め情報はみちのくトレイルクラブのホームページには出ていなかった。やむを得ず迂回路を取り、県道26号を南に向かって歩いて行く。

 南北に細長い唐桑半島の南端の岬は、御崎(おさき)という。岬の先端には細長い灯台が立っていて、岩が波に荒々しく打ちつけられている。唐桑半島にはみちのく潮風トレイルだけでなく「宮城オルレ」というウォーキングコースも設定されていて、岬の周辺には双方のコースの案内が混在している。

 今日の寝床は、御崎野営場を予約しておいた。野営場の隣には、唐桑半島ビジターセンターがあり、唐桑半島の震災について展示してある(※2022年6月27日(月)~2023年春 リニューアル工事のため休館とのこと)。ビジターセンターで食料を調達した後、テントを設営する。

 ソロキャンプの夜はいつも登山用ストーブでお湯をわかしてアルファ米とインスタントのコーンポタージュスープを作ることにしている。世間的に流行りのソロキャンプというと、高価なキャンプ道具をたくさん用意して豪勢にバーベキューなどをするイメージがあるが、私は徒歩旅、キャンプ道具も食料も必要最小限しか持ち歩く余裕はない。周りのテントサイトでキャンプ飯を楽しんでいる他のキャンパーたちに比べるといささか見劣りがするが、これが私流のソロキャンプだ。食事を終えた後は、長いキャンプの夜を読書をしてのんびりすごした。

Day25:御崎野営場→唐桑大沢駅

2022年6月12日(日)
 テント泊の朝は、日の出と同時に目が覚める。お湯を沸かしてココアを入れ、朝食を食べる。手早くテントを撤収して出発する。御崎野営場から先、トレイルはしばらく海岸線沿いの自然歩道を地形に沿ってアップダウンを繰り返しながら進んでいく。

 途中、神の倉の津波石というスポットを通る。東日本大震災の津波で打ち上げられた石だということで、津波の威力の大きさを伝えている。

 険しい歩道を抜けると、巨釜・半造という景勝地に出る。重い荷物を背負ってアップダウンを繰り返して疲労したので、景色を楽しむのもそこそこに歩みを進めて行く。

 唐桑半島の付け根まで戻り、前回昼食を食べたキッチンひがしやまの前を通る。しばらく歩いて行くと、トレイルは国道45号に合流する。

 単調な国道を黙々と歩く。途中、トレイルは大理石海岸という景勝地を経由するが、工事のため通行止めということでスルーして進む。
 大船渡線BRTの唐桑大沢駅を本日のゴールとする。ここは大船渡線がBRTに移行してから新設された駅で、駅とは名ばかりでバス停のポールが立っているだけだが、ここは宮城県で最も北にある駅ということになる。岩手県との県境は目前だ。

 今回は、2日間の合計で28kmほどの距離を歩いた。

 南側のセクションは↓

 北側のセクションは↓

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