見出し画像

金木犀の香りがきっとお父さんの笑顔を連れてくるよ


立夏を過ぎて
風が心地よく頬を撫でていく。

まもなく
父の一周忌。

昨年5月30日から
1人で暮らしている母。

母は夜が嫌いになった。

何もやることがない。
1人でテレビを見てもつまらない。
夜が長い。
話し相手がいない。

1人になった母は、よくこうこぼす。
少し痩せたんじゃない?
白髪増えたよ。
笑顔も減ったかも。


生き物を飼おうよ。
金魚でもいい。

花も植えよう


田舎の1人暮らしは寂しいよ。

前はあんなに花を植えてたのに。

最近
泊まりに行くとよく喋る母。
こんなにおしゃべりだっけ。
話し相手をいつもしてあげられたらよいのにね。


花を植えようよ

何もない庭は
普段の母の気持ちが表れているようで
見ていると寂しくなるよ。

花を植えるよ

父に好きな花があったかな。

「お父さんは金木犀が好きだった」
「そうなの?」
「香りが好きだと言っていた。」

そういえば

幼いころ、我が家の庭には
金木犀があって、家の中にも
よい香りが運ばれてきたっけ。
あれは父がどこからか、もらってきたものだった。

「金木犀の木を植えようよ」

「うん」


笑顔で頷いた母。

母の日のプレゼントは
スコップと金木犀の苗一本。


久しぶりの土いじり。
風が私と母の間をすり抜けていく。

さわさわさわさわ

父との思い出をトレースするように
土をていねいに掘り起こす


お父さんも土いじり好きだったよね。

さわさわさわさわ
ザックザック

笑顔でいればいい。
笑顔でいさえすれば
幸せになれる


お父さん
よくこう言ってたよね。


沈丁花も植えようかしら

うん。
沈丁花の花言葉は「永遠」なんだって。
他にも好きな花を植えようね。

沈丁花も香りのよい花だから
きっと家の中まで香りが届くよ。

今度、一緒に苗を見に行こう。

まもなく
一周忌だよ。

寂しがってばかりでは
お父さんも心配しちゃう。

あまり泊まりに来れなくてごめんね。

金木犀を植えたよ

金木犀が咲いたら
香りが家の中まで入ってきて
お母さんを包むよ。

香りは
お父さんの笑顔も連れてくるよ。

お父さんの笑顔は
お母さんの笑顔を誘う。

花を庭に植えよう
花でいっぱいにしよう









 




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?