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「引用と複製」 by S.N

NFT での活動を中心としている、糸川円の個展「t◯ken」が文京区のギャラリーaaploitにて開催されているので、鑑賞レビューを以下に記す。
糸川は、2023 年 1 月頃より、NFT にて活動を始めた、イラストを中心に制作をするアーティストである。

Copy & Paint ©itokwa en

中でも印象的なのは、「Day100Act◯r」である。この作品は、100 日チャレンジという他 NFT 作家の作品(キャラクター)を引用して、自らの作品に取り込んでいき、1 日 1 枚。
計 100 枚のイラスト群である。もちろん、各作家に許可は得て制作しているだろうが、その行為はアプロプリエーション的な振る舞いであるといっても良い。
もう少し突っ込んで言うと、他作家の複製不可能な作品を引用して自作品にし、また複製不可能にする。
この行為は、写真行為とよく似た側面を持っている。たとえば、風景写真は風景から引用し、複製不可能な現実を、現実のようにプリントする。
肖像写真は、被写体をアプロプリエーションし、ここに居ない人物を手元に引き寄せることができる。
写真は常に複製不可能な現実を引用しながら制作を行う作品だともいえる。写真の複製可能な領域は、実はフィルムやプリントだけではなく、現実世界からの複製なのだとわたしは思っている。
なぜいきなり写真の話をしたのかと言うと、今展示の Copy & Paint を鑑賞したからである。
18cm 角のキャンバスに、人物の顔をジークレープリントし、その人物の髪の毛を糸川自身の手によって、現実世界のキャンバスにペイントした作品である。
似たような顔が並んでいるが、目を開けた顔から瞑った顔まで 4 段階に分かれており、それが 4 種で 16 枚の作品だ。この作品は、現実の通貨で購入すると NFT でトランスファーされる。
一見すると、制作過程の、コピーされた顔にペイントした行為がタイトルになっているのだと考える。しかし、これは完成した作品をデジタルにコピーして NFT に移行させている。
Copy & Paint & Copy という構造だ。
現実をコピー(引用)し、複製不可能な作品にしあげるこの行為が、写真が現実を引用することと繋がっていると感じたのである。

わたしが前情報で得ていた内容では、糸川は NFT という複製不可能な世界で制作している作家だと感じていた。しかし糸川が活動している領域は、「引用と複製」を中心とした領域である。言い換えると、NFT の構造を「引用と複製」という NFT から最も離れた場所からアクセスし、その領域を自由に出入りしているように思う。
特に、今回のギャラリーでの展示は、フィジカルを提示する。現実と仮想の世界を曖昧にしていくことで、その領域をさらに加速させているのだ。
その一端として、ギャラリー空間には糸川の iPad と繋がった画面が常に制作を続けている。もはや、いまリアルタイムで制作されている作品は、バーチャルなのかフィジカルなのか判別不能である。
NFT 作家がリアルで展示するとき、NFT が魂でリアルはフィジカルという言葉は最近よく耳にする。今回の展示は、その断絶を繋げる役目としてギャラリーが存在している。
「引用と複製」によって活動を続けている糸川の作品でなければその境界は横断できなかったと思う。
わたしは写真を専門にしているので、複製が出来ることも写真の表現領域であると思っている。実は NFT は複製不可能の領域であると思っていたので、表現領域が狭まっていると感じておりあまり興味がなかった。
しかし、NFT は既にその複製不可能な枠組みを、イメージだけの作品制作から脱構築し、イメージと手法と表現によって超えていこうとしているのだと今展示で考えさせられた。

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