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なんやゆうき「無冠」 by P

ギャラリーaaploit、なんやゆうき個展「流転の澱」作品 『無冠』について。

無冠, 2022, ©なんやゆうき, aaploit

『無冠』は、B4サイズ程の紙に鉛筆で描かれたドローイングである。遠目には磔刑図のようにみえるが、近寄って見ると脱力した体を引き上げているかのように両腕を上げ、両性器を所有する裸の人物が描かれている。しかしそこには、十字架もなく宗教性や死など磔刑に見られるようなものは感じられない。逆に、一日の終わりに疲れを癒すため深い湯船に浸かったているもののようにも見え、瞬間の開放感あふれる心地よささえも感じる。また細長く引き伸ばされた顔は、肩とほぼ水平に極端に傾き、その表情は良い意味で何も思考せず、全ての拘束から解き放たれた無の表情をしている。その人物の胸までは筆跡も密だが、力の抜けた腰から下は消え入る感じで描かれている。また掲げられた手と、だらりとした足の指は左右どちらも3本しかなく、多分この両性の人間らしきものは鳥類に流転し、翼のように両腕を広げ宙に浮き始めた瞬間を描いたものではないかと考える。大きく変換する今という時代、又情報が溢れ観念やロゴスに縛られ人間世界を窮屈に感じているものにとって何も思考せず脱力し、全てから拘束されてない『無冠』の作品のような状態を今誰しも望んでいるのかもしれない。作家なんや自身も趣くまま自由にペンを走らせこの作品を描いたのではないだろうか。そんな作家の自由に羽ばたいたその時の感情が、観るものにもジワジワと伝わる作品である。

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