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「秋野イントロ attachment」展覧会評 by A.I

コントラストの効いた色彩と荒い筆のタッチ、太い糸でキャンバスに直接縫い付けられたボタンの目。口は、唇が印刷された紙を千切ったものが貼り付けられている。激しくデフォルメされた人物は皆、画面と対峙するこちら側を見つめている。心を見透かされているようで、落ち着かない気持ちにさせる。

installation view courtesy of aaploit

江戸川橋のアートギャラリー”aaploit”で開催中の[attachment]、秋野イントロによる作品展である。

この作風の絵画で満たされた空間にはもうひとつ特徴的な作品がある。中央に設置された、《外界干渉器》だ。ペイントの施された、ダイヤルのないアナログ回線の電話機。実際に回線に接続されているが、この作品のある空間からは発信ができない。かかってきた電話に、受話器をあげて初めて外界と繋がる。この作品の前に立ち、顔を上げると姿見に映った自分自身と目があ
う。たくさんの「目」にみつめられ、「外界」とつながるためには外からのアクセスを待つしかない。
ギャラリー空間は自己の内面、かけられない電話は他者からアクセスされたいという願望の現れのようである。

今回の展覧会を、2種類の方法で鑑賞した。まず、オンライン上で共有された360°viewで。そしてそのあとで実際にaaploitを訪れた。見る方法を変えることで、自己と他者との関わりから生まれる葛藤をテーマに制作された作品の印象が、全く違った印象で作品を捉えられたことは、非常な驚きであった。

その変化を説明する前に、秋野について少し触れたい。
心理カウンセラーというバックグラウンドを持つ秋野は、治療方法のひとつである「絵画療法」をヒントに制作を行なっているアーティストである。「絵画療法」の特徴として、画材を使って画面に描くことで描いた人の感じていること、思い描いていること、無意識的な感情を引き出していく、ということがある。
この「無意識的な部分を描き出す」ことを秋野は作品に取り入れ、表現を重ねている。
”可能な限り完成図のイメージを曖昧にし、制作しながら衝動的に感じた線や色を、後先考えずに引いていく「刹那的・衝動的な無意識画」である。”と、自身の作品について秋野は語る。

筆者の鑑賞方法に戻ろう。
オンラインでの鑑賞はたった一人で、他者の存在がない状態。
秋野が心理カウンセラーであること、ベースとなっている作品の製作方法を前知識として鑑賞した。その時の印象は、自己憐憫や他者と関わることで負ってしまう精神的苦痛、痛み、理解への欲求などにフォーカスして作品を捉えていた。中央にある電話機の作品も、他者と関わりたいが自分からは一歩を踏み出せない、誰かからアプローチしてほしいという意識。その自分を見つめる、さまざまな人格たち。ギャラリーの空間=個人の精神世界だと解釈した。

心理カウンセラーというバックグラウンドと、その刹那的で衝動的な画面から、自己に籠る悲しい擬似体験・追体験。他者との関係で負った傷を癒されたい、という願いを感じ、その部分に共感を覚えた。

一方、aaploitへ足を運んだ際は、秋野本人や来場者との関わりがあった。
展覧会タイトルの”attachment”は「愛着」を意味すること。ボタンの目は縫いぐるみから連想し、かつて既製品のボタンを使っていたがより手の温もりを与え、愛着を増すことができるよう、粘土で作るようになったこと。パンケーキが大好きで、作品にも閉じ込めてしまったこと。
「外界干渉器」の受話器の重さを感じながら、実際にベルが鳴り、外界から干渉された瞬間に立ち会う。外界と繋がった人を、目の前にする。
自己を見つめる空間で、他者と関わりながら作品を鑑賞する。そうすることで、孤独であるが故の辛さと悲しみから、愛に溢れた柔らかな印象へと変化した。
そこは、自分自身を慈しみ、愛情を注ぐための優しい世界であった。

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