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記事等のクリッピングにご注意を!     ~著作権法の基礎~

1 はじめに

令和5年6月8日、知的財産高等裁判所において、いわゆるクリッピングした記事を社内イントラネット上にアップロードした行為を著作権侵害とする判決(令5(ネ)10008号、令4(ネ)10106号)がありました。
クリッピングとは、一般に、新聞や雑誌等の記事のうち、参考になるものを切り抜いて保存することをいいます。
今回関連する裁判例が出たことを機に、業務に関連する記事等を日々チェックして保存されているご担当者の方を始め、SNS等で動画や書籍等の内容を投稿している方にも、改めて、著作権法との関係を整理していただければと思います。


2 裁判例の事案

冒頭に触れた裁判例の事案は、いずれも、ある会社(ここでは「被告」といいます)において、新聞記事の画像データを作成して保存し、社内イントラネット上にアップロードし、従業員が閲覧できる状態に置いたことにより、当該新聞社(ここでは「原告ら」ともいいます)の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害したとして、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償が請求されたものです。
いずれの事案においても、原告らである新聞社側の主張がおおむね認められ、被告が損害賠償を支払わなければならない旨の判決となりました。

3 著作物とは

著作権侵害が成立する前提として、利用したものが「著作物」であることが必要です。
そもそも著作権がある「著作物」とは、どのようなものをいうのでしょうか。
法律上、次のように定義されています。

【著作権法2条1項1号】
「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」

定義にあるように、著作物であるためには、「思想又は感情」を表現したものである必要があります。つまり、「思想又は感情」ではない、歴史的事実や気象データなどについては、著作物には該当しません。
ここで、「新聞記事は、実際に起こったことが書かれているのだから、『思想又は感情』に当たらないのではないか」と考える方もいると思います。
この点については、次の「4 事実を記載したものの著作物性」で説明します。

また、著作物といえるためには、「創作的に表現したもの」であることが必要です。
つまり、頭の中にあるアイデアは著作物には当たりませんし、個性のない、ありふれた方法で表現されているものは著作物に当たりません。

4 事実を記載したものの著作物性

それでは、新聞記事等の事実を記載したものについて、客観的事実なのだから「思想又は感情」に当たらず、著作物性がないのではないか、という疑問点について説明します。
結論から言うと、新聞記事等についても、一般的に著作物性が認められます。
その理由は、客観的な事実に関する内容であっても、素材の選択、事実の配列、表現上の工夫等によって、作成者の個性が発揮され、そこに「思想又は感情」が表出するからです。
皆さんも、同じ事実・トピックについて書かれた記事であっても、媒体が違えばそれぞれの記事から感じ取る印象が異なるという経験はあると思われます。

今回ご紹介している裁判例でも、一審判決を引用し

「担当記者が、その取材結果に基づき、記事内容を分かりやすく要約したタイトルを付し、当該記事のテーマに関する直接的な事実関係を端的に記述すると共に、関連する事項として盛り込むべき事項の選択、記事の展開の仕方、文章表現の方法等についても、各記者の表現上の工夫を凝らして作成したもの」

であることを理由に、著作物性を認めています。

5 事案で問題になった行為の性質

今回の事案では、新聞記事の画像データを作成して保存し、社内イントラネット上にアップロードした行為が問題となりました。
この行為について、「画像データを作成・保存する行為」と「アップロードする行為」に分けて、法的性質を見ていきます。

⑴ 画像データを作成・保存する行為

まず、「画像データを作成する行為」については、著作権法上の「複製」に該当します。
「複製」は、法律上、次のように定義されています。

【著作権法2条1項15号】
「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをい」う

つまり、今回の、新聞記事をスキャンするなどして画像データ化し、保存する行為は、複写して有形的に再製した場合に該当するのです。
複製権は、著作者が専有しています(著作権法21条)。
そのため、複製行為をしたい場合は、著作者から許諾を得る必要があります。
なお、許諾を得ずに行うことが認められる「私的使用のための複製」(著作権法30条)は、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」での使用を目的とする場合のみ認められます。
業務上記事を複製する行為は、この目的に該当せず、「私的使用のために複製」とは認められません。

⑵ アップロードする行為

次に、「アップロードする行為」は、著作権法上の「公衆送信」に該当します。
「公衆送信」は、法律上、次のように定義されています。

【著作権法2条1項7号の2】
「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信……を行うことをいう」

定義において、公衆送信は、社外・家庭外への送信だけに限定していません。
つまり、社内イントラネットへのアップロードについても、多数の従業員(著作権法上の「公衆」には、「特定かつ多数の者」も含みます(著作権法2条5項))によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信による送信を行っているので、「公衆送信」に該当するのです。
公衆送信権も、著作者が専有しています(著作権法23条)。
そのため、公衆送信をしたい場合は、著作者から許諾を得る必要があります。
なお、通常のインターネット上へのアップロードは、当然公衆送信に該当することになりますので、他人の文章、写真、動画等をアップロードする際は、ご注意ください。

6 まとめ

客観的事実を記載した新聞記事であっても、著作物に該当しますので、クリッピング等を行うときは、あらかじめ発信媒体から許諾を得たり、クリッピングサービスの契約を結んだりなどし、うっかり著作権を侵害してしまわないように注意しましょう。
今回は、主に、著作物とは何かをご説明した上で、複製権、公衆送信権にも触れました。
次回以降では、著作権にも法律上制限があることについて触れてみたいと思います。お楽しみに!

【執筆者】弁護士 吉江千夏  検事としての10年以上の経験を基に、不正対応やコンプライアンスなどに関するアドバイスを提供します。著作権関連の法律問題も対応いたします。

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