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令和5年6月1日施行の改正消費者契約法!その概要をご説明します!

消費者契約及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律が、令和4年5月25日に成立し、同年6月1日に公布されました。この法律に基づく改正を以下「令和4年改正」と言います。
令和4年改正の消費者契約法の改正部分については、令和5年6月1日から施行されます。

消費者契約法は消費者と事業者との間の契約(消費者契約)に適用される法律であり、BtoCのビジネスを行う企業は改正の影響を受けることになるため、自社で勧誘行為や利用規約の見直しの必要があるか知りたいとお考えの担当者もいらっしゃることと思います。

この記事では上記のような事業会社の担当者が確認するべき令和4年改正の概要についてまとめました。
なお、この記事では、令和4年改正に基づく消費者契約法を「改正法」、現行法を「法」と言います。

1 令和4年改正の改正項目

令和4年改正の主要な改正項目は以下のとおりです。
一点目「不当勧誘行為」と二点目「免責の範囲が不明確な条項の無効」が重要な項目ですが、特に二点目の「免責の範囲が不明確な条項の無効」はBtoCビジネスを行う事業会社にとって確認必須の項目です。

以下では、上記の改正項目の要点をご説明します。

2 不当勧誘行為

消費者契約法は、民法の詐欺(同法96条1項)が成立しない場合でも、事業者の不当な勧誘行為によって消費者が誤認・困惑して契約を締結した場合に、消費者契約法が定める場合には、消費者は契約の申込みまたは承諾の意思表示を取り消すことができることを定めています(法4条)。
消費者が契約を取り消した場合、契約は初めから無効だったことになります(民法121条)。既に代金を受領していた場合、事業者は原状回復義務に基づき消費者に対し返還する義務を負います(同121条の2第1項)。

令和4年改正では、取消権が認められる不当勧誘行為として以下の3つの類型がそれぞれ新設・拡充されました。

①消費者を任意に退去困難な場所に同行して勧誘した場合(改正法4条3項3号(新設))
②契約締結の相談を行うための連絡を威迫する言動を交えて妨害した場合(改正法4条3項4号(新設))
③契約前に契約目的物の現状変更を行った場合(改正法4条3項9号(拡充))

せっかく消費者と契約を締結しても不当勧誘行為があれば契約が取り消されることがあり、かけたコストが無駄になってしまったり、社会的信頼を傷つけかねません。勧誘行為を行うビジネスモデルの事業会社にとっては、上記の不当勧誘行為に関する事項は重要な改正項目になります。

3 免責の範囲が不明確な条項の無効

いわゆるサルベージ条項を無効とする条項の新設です。
サルベージ条項とは、ある契約条項が本来は強行法規に反し全部無効となる場合に、その契約条項の効力を強行法規によって無効とされない範囲に限定する趣旨の契約条項を言います(消費者庁、消費者契約法の逐条解説(令和5年2月)145頁、以下単に逐条解説と言います)。

〔サルベージ条項の例〕
「法律上許される限り、賠償限度額を〇万円とする」(逐条解説147頁)

事業者の損害賠償責任の一部を免除する契約条項は、法8条1項2号及び4号により、事業者に故意又は重大な過失がある場合には無効となりますが、「法律上許される限り」等の文言を加えた場合、事業者が軽過失の場合は当該条項を有効とすることができます。
しかし、このような条項は事業者が損害賠償責任を負うか否かや責任の範囲が不明確であり、消費者が法的知識を十分有していない場合は、本来請求可能な損害賠償請求が抑制されるといったことも起きてしまいます。
そのため、改正法により、事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項のうち、損害賠償責任の免除が軽過失の場合のみを対象としていることを明らかにしていない条項は無効とすることが規定されました(改正法8条3項)。

本来であれば、消費者契約法上、事業者が軽過失の場合に事業者の責任を一部免責する定めを置くことは許されるわけですが、その定めがサルベージ条項の場合は当該条項は無効となり、本来許される一部免責も受けられないことになります。多数の消費者と契約を締結するBtoCビジネスを行う事業会社にとっては、賠償責任が拡大するだけではなく、賠償対応が画一的にできずに業務が煩雑となり工数が増える等の負担もあるため、確認必須の改正項目です。

4 事業者の努力義務

以下の通り事業者の努力義務の新設・拡充があるため、これに伴う準備が必要です。

【改正項目】
・中途解約時の違約金等の説明の努力義務(改正法9条2項(新設)、同12条の4(新設))
・事業者の消費者に対する情報提供の努力義務(改正法3条1項2号(拡充)、同3号(新設)、同4号(新設))
・事業者の適格消費者団体に対する情報開示の努力義務(改正法12条の3(新設)、同12条の5(新設)

~中途解約時の違約金等の説明の努力義務~
中途解約時の違約金等は、契約解除時に消費者の大きな関心事項になる事柄ですが、令和4年改正前は監督規制等がない場合等契約解除時の情報提供について事業者に明文の規定がなく、十分な情報提供がなされない場合、消費者が違約金額が妥当なものであるか判断できず紛争に発展することがありました。そこで令和4年改正では消費者と事業者との情報量や交渉力の格差を解消するため、消費者からの求めに応じて、事業者に対し違約金等の算定根拠の概要について説明する努力義務を規定しました(改正法9条2項)。
また、適格消費者団体についても事業者から十分な情報提供を受けられないために、当該違約金等が法9条1項1号が定める事業者に生ずべき事業者の平均的な損害額を超えるか否かの判断ができず差止請求ができない場合があり、そのような事態を避けるべく、適格消費者団体からの求めに応じて、事業者に対し算定根拠(営業秘密等を除く)を説明する努力義務を規定しました(改正法12条の4)。
なお、両者に対する説明の努力義務はその要件や説明すべき内容について差異があります。

~事業者の消費者に対する情報提供の努力義務~
令和4年改正以前は、事業者と消費者との間に情報・交渉力の格差が存在することが両当事者の紛争の背景になることが少なくないことから、この紛争を避けるため、法3条1項1号及び2号に、それぞれ事業者の契約条項の明確化及び情報の提供の努力義務が規定されていました。近年ますます消費者取引が多様化・複雑化しており、事業者にはより丁寧な情報提供を行うことが求められることに基づき、令和4年改正により、2号の勧誘時の情報提供の努力義務についての考慮要素として年齢と心身の状態を追加する等の改正がされるとともに、定型約款の表示請求権に関する情報提供(3号)及び解除権行使に必要な情報提供(4号)の努力義務も追加する改正がされました。

~事業者の適格消費者団体に対する情報開示の努力義務~
適格消費者団体は、消費者等から情報を得て、事業者が差止請求の対象である契約条項を使用しているという疑いを持った場合には、契約条項の差止請求に先立ち、事業者に対して任意の開示を求め、契約条項を確認しています。この活動の実効性を高めるため、令和4年改正により、開示を求める必要性が高く、かつ、開示が事業者に不合理な負担を強いることにならない場合、適格消費者団体は契約条項の開示を要請することができ、事業者は要請に応じて情報開示を行う努力義務が規定されました(改正法12条の3)。
また、適格消費者団体が不当条項の差止めを請求した結果、事業者が契約条項の改善を約束したにもかかわらず、その後の開示請求を拒絶したため、不当な契約条項が是正されたのか否かが明らかではない事態が発生しています。このような事態を避けるため、令和4年改正により適格消費者団体は自らが行った差止請求後の措置の開示を要請することができ、事業者は要請に応じて情報開示を行う努力義務が規定されました(改正法12条の5)。

5 まとめ

この記事では消費者契約法の令和4年改正の概要について解説しました。

【執筆者】弁護士 平野満穂 リモートで企業の法務チームの一員として、エネルギーやデータ分野における上場企業等の法務業務に従事。在日フランス案件にも注力する。

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