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役に誠実であること-里美京馬花形の芝居の話-

(ヘッダーのお写真は、6/21ラストショーより。6~7月はラストショーの写真アップOKだそうです)

お芝居には、主役がいる。
そして、主役以外がいる。

大衆演劇のお芝居は、座長がたいてい主演だ。芸達者&個性的な座長さんたちの主演ぶりが、その芝居の色を決定づける。これがどういう物語だったのかを教えてくれる。何度も追いかけてきた、大好きな光景だ。

では、「座長以外の役者さん」のファンにとって、芝居の最大の楽しみは何だろう?

ある劇団の座員さんファンから、かつて聞いた。
「ゲスト出演するって告知があったから観に行ったけど、芝居の出番5分だった~(笑)」
別の劇団の座員さんファンのお話も、人づてに。
「仕事終わりに遠い劇場まで必死で駆けつけたら、ご贔屓のセリフ『御用だ御用だ』の一言だった…」

演目内容も配役も日替わりの、大衆演劇ならではのエピソード(;´∀`)

特に遠征ファンは、職場の休みや、交通手段やホテルの確保のため、一か月、時にはそれ以上前からスケジュールを組んでいる。ご贔屓の役者さんの出番も役柄も全然わからないまま、決して安くないお金を、新幹線や飛行機にエイヤっとつぎ込む。

そのエネルギー源のひとつは、役者さんが「役を誠実に演じてくれる」ことではないか――などと、最近「座長以外の役者さん」を観に遠征するようになった私は、つらつら考えていた。

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(お写真は7/12ラストショーより)

2020年1月の浅草木馬館。劇団美山の里美京馬花形の芝居に打たれ、たびたび舞台を拝見している。
(ちなみに1月には遠い出来事だったコロナ…今では観劇のお供に、マスク・アルコール除菌シートが欠かせない。感染拡大状況からあきらめた遠征もある( ;;)早く世界から消えてコロナ!)

6/20(土)~6/21(日)に大阪・池田呉服座を。7/11(土)~7/13(月)に、奈良・弁天座を訪れた。

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(お写真は6/20、7/11、7/12のラストショーおよび劇場)


6/20(土)のお芝居は、ファンの注目を集めていた新作『桜通り十文字』。
燃えるような恋、恥、男の面子、そして狂気…圧巻の芝居だったことは、皆さまがSNS等で語られているとおり。

京馬花形の役は、美しい花魁の間夫だった。

花魁(里美こうた若座長)の一途さに比べ、間夫は情の薄い印象だ。花魁にご贔屓客との愛想尽かしを迫り、「いやなら別れる」と言い放つ。
恋人にニコリともせず、冷たい視線、傲慢な態度……花魁の愛を試すというより、「言うことを聞かないなら本当に別れてもいい」と思ってるのじゃないだろうか?
花魁と間夫が会話するのは一幕のみ。けれど、恋人たちの力関係がアンバランスだと教えてくれるのに、十分な演技だった。

そして愛想尽かしのシーン。主人公の醜男(里美たかし座長)は、花魁に手ひどくふられる。
間夫は、襖の向こうから全部盗み聞きしていて。舞台の端で、静かに嘲笑った。その嘲笑が、主人公の惨めさをますます際立たせた。

終盤。間夫は、傲慢さへの罰のように、腹を思いきり刺される。
翌日の口上にて。京馬花形は「あのシーンの血糊は原液で飲んだ。深く刺されるから、血が濃い方がいいと思って」と語られていた。

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(6/21口上挨拶)

時に悪役でも。役や場面に、真剣に向き合っておられるんだなあと感嘆したのを覚えている。


7/13(月)のお芝居は、かねてから宣伝されていた『一本刀土俵入り』。
ゲスト・宝海大空座長の茂兵衛、里美こうた若座長のお蔦さんという、ピュアさ&芸達者ぶりの実にまぶしい組み合わせ。

京馬花形の役は、お蔦さんの旦那、船印彫師の辰三郎だった。
(ちなみに船印彫師というのがどういう職業かご存じの方、twitterの@AaHiyoまでご教示くださると嬉しいです…!調べてもわからず…)

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(7/13ラストショー後の挨拶)

登場から、いきなりヤクザに追われている辰三郎。何でもイカサマ博打をしたらしい。
辰三郎が短い懐刀をこわごわ振り回す姿は、いかにもかたぎだ。剣呑な弥あ公(里美たかし座長)や、貫禄ある親分(里美祐樹さん)に比べて、実に弱弱しい。

その後、茂兵衛がお蔦さん親子を助け、逃がしてくれる名シーン。辰三郎は一瞬、困惑したように茂兵衛を見る。
自分が留守中に、妻に大恩を受けたらしい男が助けてくれるというのだ。もしかしたら…疑惑がよぎったのかもしれない。

けれど、茂兵衛と別れる際には、にっこりと大きな声でお礼を言って。妻子を連れてはけてゆく。

基本的にお人よしで、かたぎの良き夫、良き父親。ハッピーエンドのお蔦親子にふさわしい、役に忠実な演技ぶりだった。


ほかにも、7/11の『惚れた女房』の三枚目のテンポの良さとか、7/12の『恋の片男波』の七五郎の礼儀正しい"若"ぶりとか。
様々な役を拝見して、花形は「役に誠実な役者さん」だなあと心から思う。それを可能にするのは、積み重ねられた技術なのだろう。

"ご贔屓の役者さんの出番も役柄も全然わからないまま、決して安くないお金を、新幹線や飛行機にエイヤっとつぎ込む"ファンのエネルギー源は、ここにこそあるのではないか。
あの役者さんの役は二枚目か、三枚目か。善人か悪役か。出番が多いか、少ないか。遠征を決意する時は、本当に何もわからない。
しかし唯一確かなこととして――行けば、誠実な演技が観られる。
これ以上、ファンにとって幸福な舞台があるだろうか。


お芝居には、主役がいる。
そして、主役以外がいる。
どんな役であろうとも、目を凝らして。その演技を、心から待っている。


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(ここからは大衆演劇と直接関係ないです)
最後に、舞台を愛する一ファンとして。
7月遠征の真っ最中。新宿の舞台でコロナのクラスターが起きたとの報道があった。
原因究明や対策をしてくださる専門家、舞台に関わる人々に、心から敬意と感謝を表します。これからの舞台に、いっそう効果的な対策が為されることを望みます。

そして、出演者、観客問わず、すべての感染者の方が、一日も早く快癒されますように。
様々な意見がありますが、病める人に石を投げることは、決して許されることではないと思う。
心がカラカラになってしまった時、人生の寂しさに身が切られる時。舞台のきらめきは心にしみこむ。まだ自分は、安らぎやときめき、温もりを感じることができるのだと。
どんな文化人にも、どんな立派な人間にも、その気持ちを裁いたり、嘲笑ったりする権利はないと私は思う。

きっとまた、皆元気に、好きな舞台を観に行きましょう!
一日も早く世界から消えてコロナ!(しつこい)