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2021年・珠玉の8役

まだまだ厳しい状況下ながら。芝居小屋を守られた方々のすべての方によって、いくつも素敵なお芝居に出会えました。
きらきらしい思い出の中で、宝の出会いとなった8役を、時系列で振り返ってゆきます。


①劇団美山『馬と鹿』より里美京馬副座長の悪漢

(5/10夜@篠原演芸場)

とてもキラキラしたクズでした。
大衆演劇の愛されキャラクターが、裏でクズ男だったら!のif物語。
京馬副座長はクズの役がお好きだと、Twitterのどなたかのレポで読み、ワクワク迎えたこの日。

(当日のラストショーより)

(三下をぶん殴りながら)「金貸せ、あとお前の女紹介しろ。お前より俺の方がいいに決まってんだろ!」
(女性から妊娠と出産を告げられて)「(自分の下半身を見下ろし)もう、暴れん坊なんだから」
女と金、原始的な欲望でギラギラして、親分を平気で裏切る。けれど騙されやすくてボロが出て、最終的には親分に成敗される。
動作もセリフも表情も、クズ成分が満タンでした。天晴れ!

いつも魅力的な、京馬副座長の悪役ワールド。『梅川忠兵衛』の堂々たる悪漢・丹波屋八右衛門、『籠釣瓶』の美しいエゴイスト・繁山栄之丞、『人斬り林蔵』の粗暴な子分・庄八、『仇討ち半次郎』の心の闇が深い仇役……それを可能にしているのは、真摯な演技ぶりと鍛えられた技量なのでしょう。

2022年も、新しい悪役に出会えますように(もちろん悪役以外も!)。


②見海堂劇団『女座頭市Ⅰ・Ⅱ』より見海堂真之介総座長のお市

(6/12昼夜@浅草木馬館)

少女のような座頭市。びりびり世の中を警戒している。

(当日の劇場ポスターより)

お市は変わった刀の持ち方をする。体の前で、ぎゅっと両手で握りしめているのだ。小さい子どもが、恐る恐る外を歩いているように。
幼い日、父に二両で売られた―その心の傷が凍ったまま大人になったひと。

運命の果て、父を斬る瞬間の心の叫び。「なんで二両なんかで売ったのよ」
初めて恋した男に、きちんとした許嫁がいたと知った時の絶望。「あたしはやっぱり幸せになんかなれないんだ…」
お市の子どものようなむき出しの涙が、Ⅰ・Ⅱの全編に満ちている。

真之介総座長の大きな目、いたいけなお顔立ちが、役にばっちり活きていて、【素敵な役者さんがハマリ役に巡り合ってくれる幸福】をしみじみ噛みしめた。

お市の旅路はまだ続いている。「女座頭市Ⅲ」ができないかなー!(観客の心の叫び)


➂劇団美山『刺青奇偶』より里美たかし総座長の半太郎

(5/2昼@篠原演芸場、6/25夜@梅田呉服座、11/21夜@新開地劇場)

2021年、大変ご縁に恵まれた一本。
「主人公がカッコいい芝居」でいえば、この年最高の一本でした。

(5/2昼のラストショーより)

半太郎は動作も口跡もきびきびとした、いかにも男らしいキャラクター。総座長の、鍛えられた肉体ありてこその名役だ。

恋女房お仲は病床にある。お仲の命がもう長くないと聞いた時、半太郎の表情は動じない。涙も滲ませず、声もカラっとしたまま、お仲に言う。
「やぶ医者の見立てなんか気にするな。お前には俺がついてるんだから。なあ、でえじょうぶ(大丈夫)だよ」
 
そして鬼のような険しい顔で、お仲から顔をそむける。
それが涙をこらえる男の表情だとわかった時、客席の私も涙がぽろぽろ溢れた。

ザラザラ乾いたハードボイルドな、男の世界の男。その下に滲む深い悲しみ。カッコよさを追求してゆかれる役者さんの、最高の半太郎を観ました。


④⑤劇団美松『弁天小僧 リオーガナイズ』『リオーガナイズ2 吉原徒花』より松川小祐司座長の弁天小僧、南雄哉花形(劇団菊)の政吉

(9/5昼@みのりの湯柏健康センター、12/19昼@大島劇場)

面白すぎて、次の幕が開くのが待ちきれない!
Twitterでも「今年のベスト」に挙げられたり、2021年ナンバーワンの一本と感想ブログに書かれたり…関東の大衆演劇に吹いた【新風】、劇団美松さんの『弁天小僧 リオーガナイズ』シリーズ。

(9/5昼舞踊ショーより)

何百年も愛されてきた弁天小僧に、松川小祐司座長がいまの息吹を吹き込まれた。
茶屋の看板娘になりすまし、女性客に執事喫茶風にふるまうお茶目な一面(「お帰りなさいませ、お嬢様」ってお茶出してくれる)。
政吉と楽しいバディ関係で、江戸の衆を守ってくれる。

(9/5昼の口上より)

また、いま一人の主人公、岡っ引きの政吉。

(12/19昼の舞踊ショーより)

「俺は弁天以外の悪党は信用しねえんだ」とのセリフのとおり、岡っ引きながら弁天の相棒。弁天の華やかさを支えてくれる、実直な人の良さ。

つるんとしたアニメのキャラクターのような弁天と、地道な温かさの政吉。大衆演劇界ベストパートナー、ベストカップル、ベストフレンド賞でした。


⑥劇団美松『湯島の白梅』より藤川雷矢さんの早瀬主税

(9/6夜@みのりの湯柏健康センター)

技術の凄まじさに圧倒されたラストでした。

(9/6夜の舞踊ショーより)

お蔦の悲しい亡骸のそばで。主税が、地に響くように泣いた。
その瞬間、自動的に、何かに憑かれたように、私もどっと涙が出た。
魔法?と思うほど、座布団の上で動揺しました。どうなってるの?

2021年、藤川ご兄弟の古典的な芸の深さは、Twitterでも口コミでも話題になったところ。お萩さん(@yhgraceyh)のロングインタビュー「藤川雷矢・藤川真矢と、芝居をめぐる長話」も楽しく読みました。

ある種の剛腕で、客席の心をぐいぐい連れて行く。古典の中には、そんな魔法のような技術があるのだろう。それがまだ弱冠三十歳(!)の役者さんに宿っていることが、とても嬉しい。


⑦長谷川劇団『一姫二太郎三かぼちゃ』より京未来花形のトメ

(11/20昼@梅田呉服座)

演者が、役とぴったり重なりあっていた。

(11/20昼舞踊ショーより)

「KANGEKI」2019年12月号で特集されてから、気になっていたお芝居。ゲストとしてはたびたび拝見していたものの、劇団としては初拝見。
負けん気の強い末っ子のトメ。兄姉たちは皆優秀で、実家を出て行き、都会できらびやかに成功している。
けれど、長男の困窮に手を差し伸べるのは、ぶっきらぼうなトメなのだ。金を貸すことと引き換えの、トメの願いは―
「一郎兄ちゃん、もっと帰ってきて! 正月、父ちゃんも母ちゃんも、一郎はまだ帰ってこんのか、明日は帰るか明後日は帰るか待っとった、でも兄ちゃん帰ってこなかった。長男の兄ちゃんが帰ってくれば、皆ももっと帰ってくると思うんよ…」
芝居が終わった時、客席は涙涙に濡れていた。

その後の舞踊ショーは、熱狂ぶりに驚かされた。
京未来花形が、にっこりと客席へ微笑む。客席が熱い視線を彼女に向ける。こらえきれない声が、(未来!)(未来!)と小さく聞こえる。次々舞台へ上がる、お花に贈り物。
男性社会だと内外から言われる大衆演劇で、女性の花形にここまで沸く客席を初めて見た。
新しい風が吹いているのだろう。


⑧劇団花吹雪『鬼が泣いた日』より桜春之丞座長の土方歳三

(12/11夜@三吉演芸場)

(12/11夜ラストショーより)

とにかく目立つ主演でした。顔にも態度にも、土方の心の動きがガンガン出てくる!
最初は邪険にしていた少年が、自分に憧れての入隊と知り「嬉しいじゃねえか」と機嫌がよくなる様子。
だんだんと少年との心の距離が縮まっていく日々が、丁寧に描かれる。

「俺たちは女子どもでも斬る、そう言ってるよ。でも、子どもは斬るなよ」
終盤の短いセリフに、不器用な土方の悲しみがぎゅっと込められていた。

口上によると、もともと劇団荒城さんのお芝居だそうな。許可をもらって、やらせてもらってるんです~というエピソードから、両座長の荒城愛をたっぷりお聞きした( ´∀` )
お芝居が波及していくのは、観客にとっても楽しいこと。物語を作られた荒城真吾座長にも感謝した一夜でした。


こうして振り返ってみると、「役者さん」と「ハマリ役」との出会いが、いかに豊かな舞台を生み出してくれるかと、思わずにはいられない。
古典の物語から、その人なりの色付けで生まれる役。
新しい物語から、フレッシュに飛び出してくる役。

2022年も、楽しくたくさんの役を観てゆけますように!