クロードと小役人1

いつも疲れているが今日はどっとつかれた

小役人は自室に戻るなりベッドにそのまま倒れこむと枕に顔をうずめてうなる

固い枕だ。
評議会も王の活躍により資金は集まりつつあるがエネミーのせいで家をなくした民の為の救援にまわしたり、
とにかく金の巡りはよくない

みかねたコンスタンスが怒りを爆発させ評議会も態度を改めたが、王はともかくだからといって評議会側である己や職員の待遇がよくなるわけではない むしろ悪い

当たり前だ王は命懸けで世界を守り民を救う

その分待遇がよくなるのは当然だろうではそこで働いている者はどうかとなると話は別だ

評議会にくれば食いっぱぐれることはないからと双子のルイと一緒に評議会に入った

元より欲はなく確かに食いっぱぐれることはない 金も貰える

だが以前よりひどくなっている気がする
王がなるべく満足できるようにするため自分達の経費を削っているのだ

それはパメラでさえそうなのだろうから誰も文句はいえまい

王達の宿は小役人の部屋より1ランクか2ランク上のそれなりの部屋らしいがここの壁は薄く隣の部屋でトランプで遊んでいるらしい同僚の声が聞こえてくる酒も入っているのか五月蝿い

小役人はよろよろと戦いで疲れた体を起こし外へ出るここにいるより外で夜風に吹かれている方がまだ休める

宿から出るとひゅっと冷たい風が顔を撫でた
寒い想像以上に夜風は冷たく身が凍ったやはり戻ろうとドアノブを後ろに引きかけたが遠目に松明の灯りが見えた
(何だろう…) こんな夜に…と思っていると松明はこちらに向かって近づいてきた
徐々に炎に照らされた男の輪郭が露になる

「クロード様?こんな時間に何処へ…」
「よくもこんな最低の宿にこの俺を泊まらせようとしたな」
(うぐっ)

挨拶もなしに直接グサグサと言葉の刃を突き刺してくる
王はまずバイオリンを奏でていると他の王から苦情がきて芸術のわからん奴等からの文句等誰が聞くかとか

壁が薄すぎて隣のアディ等色ボケした女どもの会話が聞こえてうっとうしいとか(それをいってしまったらクロードはブーメランで帰ってくると思うが)

ベッドがかたすぎるとか王をもてなすつもりがあるのかとか

とにかく不満しかなかった

「すいません…王の皆様が休めるように手配したのですが逆に疲れてしまったようで」

小役人は深く頭を垂れるクロードは全くだと鼻を鳴らして呆れている

「俺は足手まといの評議会共を守りながらエネミーと戦ったのだ。なのにこの程度のもてなしとはあきれ果てている」

疲れたのはこっちだが…
クロードが何も言わなくなり満足したのかと思っていると突然白い手袋をつけたしなやかな手が小役人の顎を下から強引に引っ張りあげる
「うわっ」
「貴様疲れているのか?」
顎ごと体を持ち上げられ華奢な小役人は宙に浮いた間近にはクロードの顔がある

目と鼻の先だ本当に鼻が当たりそうな

「ち、近いですよ!?」
「質問に答えろ。疲れているのか?」

疲れているに決まっている
自分勝手な王に振り回され戦いではエネミーの攻撃を受けて衝動に体が震えー
まぁ頑丈が取り柄の体だから別に寝れば治ると思うが

「疲れてはいますが…少し寝れば大丈夫です」
「嘘だな貴様、このところ目の下の隈が酷いぞ鏡を見たか?」

そんな時間も無かった
クロードが懐から手鏡を取り出し小役人に見せた
鏡には青白く窶れた隈の酷い男がいる

「う、うわぁ…」
「まったく…俺の僕たる者、身嗜みには気を付けろ貴様が倒れてしまっては元も子もない」

これは労ってくれているのだろうか

少し感動しているとクロードがじっと小役人の目を覗きこんでくる

「あ、あの…」
「ふむこうして貴様の顔を観察するのは初めてだなどれ…」
つつーっと長い指が小役人の耳下から顎までなぞり頬に伸びる

(えええ何してるんだこの人は…!?)

動揺し体が強張るされるがまま触られているのはクロードが小役人に逃げられないように足を踏みつけているのと理解できない状況に恐怖で身がすくんでしまっているからだ

今までここまで接近することもましてや触られることも無かったというのに

急に戯れにしても心臓に悪い

その上否応なく小役人もクロードの顔を見つめる羽目になる

当然ながら整った顔しゅっと細い顎
唇は薄く形が良い
鼻筋が通り傲慢と自信が溢れる眼差し

松明の炎が揺れてクロードの瞳の色を変えていく
切れ長の目は鋭く苛烈さと冷酷さを持ち合わせておりーーーつまり

(顔が良い…)

色々言ったが顔が良すぎる一点に尽きる

思わず見惚れてしまっているとクロードがふと口角を吊り上げ
「悪くない」
「は?」
「貴様さては俺に見惚れていたな?」

図星を貫かれ顔に熱が集中する
「ち、ちちちちちがいますよ!?急に顔掴んでくるからー」

持ち上げられていた体がゆっくりと下ろされ足が地面につく

クロードは松明を小役人に渡すと
「それの始末をしたあとゆっくり休め
これは王命だ」

さっさと行ってしまったクロードの背を見送り
一人残された小役人は呆然とした結局休めとか良いながら松明の火の始末をしろという矛盾していないか

やはり王に優しさを期待するだけ無駄…

しかし自室に戻ると煩かったとなりが恐ろしい程静まり返っていたしーんと気味が悪いほど静かで逆に不気味である

皆寝たのだろうかまだ寝る時間には早そうなものだが

気になって隣のドアをノックするとかちゃとドアノブがまわり恐る恐る同僚が顔をだす

「あ、お前か良かったまたクロード様だったらどうしようかと…」
「クロード様?」

「さっきここにきて静かにしろ小役人が眠れないだろうがって…殺意が凄くて…怖くて…」

クロードが自分の部屋より格が下の部屋にわざわざ来て同僚に静かにするよういってくれたのか

にしても日頃頑張ってくれている役人等にする態度ではないし理不尽すぎるので小役人は同僚に深く頭を下げた

だが俯いた表情は自分の為にクロードが動いてくれたという嬉しさから笑みが滲んでいた

翌朝 早朝からの出発により不平不満たらたらの王達を尻目に全く部屋から出てくるようすのないクロードの部屋に訪れた

「クロード様ー出発のお時間ですよー」
ノックをしても出てくる様子はない
パメラはかんかんで何がなんでもクロード様を起こしてこいと頬がひきつっていた

「クロード様ーーー…はぁ、あれ空いてる」
ためしにドアノブを回すとドアが空いた
そーーと部屋に入りゆっくりと音がしないようにドアを閉める

部屋は簡素なもので小役人らの部屋を多少ましにした程度のものだ
これは怒るのもむりは…もっと酷い部屋にいた自分達は耐えたのに…

カーテンは閉じられわずかに太陽の光が漏れ床を照らす

クロードはベッドの中にいた
目を閉じていて寝ている

彼にしては珍しく近づいても気を抜いているのか全く起きる気配がない

「クロード様出発のお時間が…」

恐れ多いがそっと肩を触り揺さぶってみた
するとクロードが突然目を開き小役人の肩に手を回しぐいっとベッドに引き込んだ

「うわぁぁぁぁあ!?」

「朝から五月蝿い…で?何のようだ?小役人俺様は寝ているのだが」

「で、でも出発…」

「貴様まだ目の下に隈があるぞ」

クロードが小役人の目の下を指で触り伸ばす

昨日の好奇心からくる触り方ではない心地よさすら感じる触れ方に背筋がそぞぞとした

飼い主に撫でられている犬の心境か

「そんな一日で隈は消えませんよ…」

「ふん、仕方あるまい
なら俺直々に休息を与えてやる………」

どういう意味か?と訪ねる前にクロードは目を閉じ小役人の肩をがっちりと掴みー寝ていた

「あ、あのークロード様…」
「寝ろ」

目を閉じたままクロードが命じる
「王命だ寝ろ朝は寝ているものだ朝から出発など馬鹿馬鹿しい側で寝ることを許してやる」

これは非常にまずい状況になってしまった

ばくばくと心臓がなり鼓膜まで音が聞こえてくる 体は緊張しクロードの体と触れあっている肩や腕、足が硬直しー緊張した

眠れない疲れがとれるどころかー
「情けない奴だ…」

クロードがおもむろに起き上がり小役人をベッドから蹴りだすとすくっと立ち上がる

颯爽と服を着替え剣を担ぐ

「貴様は寝ろ、という至極簡単な命令にも従えないのか?愚か者め」

「だだだって恐れ多くてとてもとても」
「ふん、今日のところは許してやるだがー」

ドアノブに手をかけクロードは不敵に微笑み
「次は寝れるようになっておけ」

一人取り残された小役人は高熱を出して固まっており迎えに来たノクシーヌはクロードの泊まっていた部屋のベッドで服が乱れた状態でいる小役人を見て赤面し絶句した

結局その日は出発できず旅は1日延期した
おわり




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