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月に謡う

中学1年生の国語の教科書に「月に思う」という章がある。百人一首から月にまつわる和歌を集め、まずは古文というものに触れてみようというものだ。
「いろはうた」のすぐ後の章で、古文・和歌との出逢いの章になる。

教育実習で私が授業を行ったのがちょうどこの章だった。多分、この章を読むことに関しては生徒以上に私が一番楽しんでいた。

夜空にぽっかりと浮かぶ月
黄味がかって大きくあたたかいときもあれば
遠く青白く冷ややかなときもある
突き刺すように細く鋭いときもあれば
まん丸以上にまあるく見えたりもする
いつもそこにあるように見えて
ときに姿を隠したりもする。

見える姿も時間も日々変わるのに、私もあなたも同じ月を見ることができる。

空に浮かぶ月、手の届かないそれに昔から人は様々な想いを抱いてきたらしい。

Seventeenのパフォーマンスチームのユニット曲には、月灯りの元で出逢う2人をテーマにしたような曲が3つあり、私は勝手に「月三部作」と呼んでいる。

“好き”にも色々あるけれど、月三部作は「カッコいいから好き」とも「寄り添ってくれるから好き」とも違う。
手の届かない美しさや、文学性を秘めているところが好き。そしてどこか切なくて哀しいところも好き。

13월의 (Lilili Yabbay/13月の舞)
Moonwalker
247

今回はこの月三部作の世界にヒタヒタに浸りたくて書き始めました。

Moonwalkerと247の間にはShhhが出ていて、これが他三曲と関係ないのか?と問われると自信はないけれど、個人的にはなんとなく別な気がしているのと、何より月が出てこないので今回は外しました。
個人的な感性のまま一つの文脈に乗せて解釈していく部分もあるので異論はもちろんあるかと思いますが見守っていただけると嬉しいです。

13월의 춤(Lilili Yabbay/13月の舞)〜月に籠める

ここに存在しない時空の中、月の光の下で舞い踊る。

넌 내 꿈에 살고 아름다우며 
君は僕の夢に生きて美しく
날 흔들고 갔고 (사라져서)
僕を揺さぶっては(消え去って) 
날 기다리고 기다리게 해 
僕を待ち侘びさせる
달을 보고 너를 기도하게 해 
月を見ては君を祈る
널 보게 해달라고 
君に逢えたならと

歌い出しの歌詞も、民族音楽を彷彿とさせるような前奏も、横たわり折り重なった4人の作るゆらめく炎も…全てが香り高く幻想的で、この曲の世界の入り口として結界のような役割を果たしている。

最初から出てくる「僕」の絶対的に求める「君」。
「僕」の心、そしてこの歌の中心にその人がいることは明らかなのに、実存を感じない。
「僕の夢の中」に生きる美しいひと。

나의 움직임 너의 의미 가득 담아 
僕の動きは君の意味を籠め
우리 둘만 
僕ら2人だけ
존재할 수 있는 그 시간을 열고 
存在することのできるその時を開き
그럴 수 있다면 그래 그럴 수만 있다면 
そうできたなら そうすることさえできたなら
나를 그려낼게 
僕を描き出そう
13월의 춤 
13月の舞

13月の舞。
存在しない時空を開くための舞。
その身振り手振りのひとつひとつは全て「君」に由来し「君」に捧ぐものであり、それは同時に「僕」の表出でもある。「君」と「僕」の境界があまりにも淡い。

ここまで、MVを見てみると「祈り」「舞に込める」「時間」など歌詞に忠実に表現しているように感じるし、同時にこんな振付も解釈も見たことないとも感じる。激しいけれど妖艶で、品があり、少しでもバランスが崩れたら現実世界に流れ出してしまいそうな繊細な「2人だけの」閉じた世界。
パフォーマンスチームの中でこの曲を超えるべきものとして捉えられているのはこういうところなのだろうと思う。

마음의 믿음과 기도가 
心からの信頼と祈りが
널 위한 기도가 
君のための祈りが
사라지지 않을 거라 믿어 
消え去ることはないと信じる
믿음을 의심한 적이 없어 
信じたことを疑いはしない
목마르고 추워져도 
渇こうと凍てつこうと
이곳에 서서 
此処に立っている

ここで言う「信じる」は疑う必要のない当然のものではなく、疑わずに信じるのだ、という意思であり希望だろうと思う。

だってここまできてもまだきっと、「僕」は「君」に逢えていない。

夢に生きるそのひとを求め、求めて、こんなにも確かな想いがあるのに「君」には触れられていない。
目に映らない、指に触れない、けれども「君」を…「君」を想う「僕」を疑わない。

なぜならその13月は月灯りと「僕」の信じる想いだけで支えられている世界だから。
疑えば最後、「君」に逢えなくなる。

사계절로 우리 가둘 수 없지 
四季の流れすら僕らを引き離せない
내가 그린 선 끝 따라 봄이 와 
僕が描いた線は春を導き
너의 눈물 흰 눈이 되어 
君の涙が白雪となり
서로 감동의 물결 만들어내 
互いに心の波紋を起こそう

全ての時間や自然の摂理から隔絶された2人だけの世界。そこでは時の流れや自然に2人は溶け合い、もはや肉体からも解き放たれて心だけで触れ合うかのよう。

시선은 너만 보고 있지 
視線は君だけを見ている
오로지 너의 앞에서 13월의 그곳에서 
ただ君の前で 13月のその場所で
춤을 출거야 
舞を舞うんだ

腕を折り畳み、一輪の花を咲かせ、手を伸ばし、散って行く…そんな振付でこの曲は幕を下ろす。

私の見る13月の舞では、曲の終わりまで一度も「君」に触れられていない。ずっと前から遭っているのに対面するという意味では逢えていない。
それが本当に切ない。

月に手を合わせ君を待つ。
月を介して君に逢う。
僕の中にいる全ての「君」を籠めて舞を舞う。
その時、ひとびとに見えるのはただポッカリと浮かんだ大きな月と「僕」の舞姿だけなのだろう。

しかし確かにそこに「君」がいる。

MoonWalker〜月に誘なう

13月の舞が水墨画の世界なら、こちらは濃紺。

깊어진 밤 모두 잠든 사이 
深まる夜 皆が寝静まる頃
우리의 기분이 더 올라 
僕らの気持ちは一層高まる
더 올라가자 그럴 수 있어 
もっと上げていこう、まだいけるよ
올라갈 수 있는 만큼 더 그만큼 
上げられるだけ、もっと、そのくらい
하늘에서 동아줄이 내려와 
空からロープが降りてくる
공기 밟아 걸어 올라 잡아 
空気に足を掛け登って掴んで
우리 둘을 상상해봐 
僕ら2人を想像してごらん

MoonWalkerは13月の舞よりも「この世界」と言う感じがする。「この世界」で寝静まった人々の意識が離れた隙を見計らい月面旅行へ。幻想世界であることには違いないけれど、私の目に映る、あのお月様へ遊びに行くかのように感じます。

そしてここでは「君」との距離がとても近い。
ほらこっちこっち!!と手を引くような曲。

달빛이 닿는 
月灯りが届く
이 순간을 걷는 Moonwalker 
この瞬間を歩くMoonWalker
널 위해 춤을 추는 밤 
君のための舞を舞う夜
달빛에 너를 부르자 
月灯りに君を謡おう

「月灯りが届く」
…つまり「僕」が立っている場所はあくまでもこの地球で、月面旅行も想像の話でしかない。
“MoonWalker”
月を歩く者なんて名前を掲げながら、本物の月に降り立つわけではなく月灯りに照らされた「ここ」を歩き、踊り、謡っているのだということがどこか歪で、しかしだからこそ美しい。

そして「君のための舞」といえば13月の舞で、ここで前曲との繋がりを感じることもできる。

눈빛 한번 맞춰봐 
視線を一度合わせてみて
온 세상이 보인다 
世界全てが見えるよ
태양 빛을 머금은 별들은 샹들리에 
太陽の光を湛えた星たちはシャンデリア
발 박자 하나둘
ステップ 1、2
신나지 내 맘은 
昂揚してるのか僕の心は
이륙하는 비행기 
離陸する飛行機
엔진의 소리 Broong broong 
エンジン音がBroong broong 

想像だけでこの万能感。
なんだか「僕」と一緒にいれば私でも月に手が届くんじゃないかと思ってしまう。
そして例え月に行かなくてもそれが大した問題ではないように思えてくる。魔法が使えなくたって、ただの法螺吹きとは言わせないだけの魅力がそこにあるから。

달빛을 걸어가는 My name 
月灯りを歩くその名も
Moon walker walker 
MoonWalker
널 위한 나를 
君のための僕を
준비하고 있어
準備しているよ
Oh stay with me 
あぁ、そばにいて

余裕そうな“MoonWalker”から不思議な夜に誘い出されていると思っていたのに、全てはここに繋がる壮大な口説き文句だと考えたら敵わない。

あの、13月の舞と比べると「妖艶」よりは「挑発的」と言う表現が似合うようなパフォーマンスもこの曲のテーマにぴったり。

けれどIncomplete、Be the Sunの MoonWalkerのパフォーマンスはかなり大人びて、妖艶さと非現実感を増している。パフォーマンスによっても読み方が変わる、ミラーボールのような歌だと思う。

247〜月に隠れる

난 잠을 잘 때 항상 조심해 
僕は眠るときいつも気をつける
누가 나의 꿈에 몰래 들어오지 않게 
誰かが僕の夢に忍び込まないように
누가 내 마음을 알까 봐 겁나 
誰かに僕の心を知られるのが怖いんだ
내 꿈은 오로지 너만 꿈꾸는데 
僕の夢はただ君だけを見ているのに

打って変わって急に臆病…かと思いきやそれ以上に依存的。夢の中に自分が求める以外の誰かが入ってくるだなんてなかなか想像しないと思うけれど、それに怯えてしまうくらい本当に「君」ばっかりを夢に見ているんだろうな…
そしてここでハッキリと君の夢を見ていると言ってしまうところがなんだか切ない。
前2曲は目の前に「君」がいないからこそ、幻想の世界を作り上げて逢瀬を重ねていて、あくまで「僕」は「君」を見ていた。けれも247ではそれを夢と自覚してしまっている。

대체 넌 Why oh why 
一体君はWhy oh why
외로워진 내 모습을 넌 알 수 없는 걸까 
寂しがる僕の姿を君は見つけてくれないの
넌 Why oh why 
君はWhy oh why
왜 내 마음을 몰라 
どうして僕の想いをわかってくれないの
난 너만 있으면 돼 
僕は君だけがいればいいのに

自覚してしまったからこそ「君」が目の前にいないことへの寂しさが溢れ、「君」が目の前にいないからこそ「僕」の心の中の「君」にやるせない想いをこどものようにぶつけてしまう。

247 너를 찾아서 
247 君を探し求め
헤매이고 헤매이다 도착한 이곳 
惑い迷って辿り着いた場所
두 팔을 벌려서 너를 안아보면 
両腕を広げ君を抱きしめてみても
아무것도 잡히지가 않아 
何ひとつ掴めはしないんだ
무슨 말로 널 그리워해봐도 
どんな言葉で君に焦がれてみても
너로 고픈 내 마음은 채워지지 않아 
君に飢えた僕の心は満たされないんだ

ずっと探していたひと。唯一の「君」。
失恋ソングと言ってしまうこともできるけれど、私はやっぱり「僕」と「君」はそもそもまだ逢えていない…現実世界で対面することができていないんじゃないかと感じてしまう。

前2曲では君を想い描くだけでなんだってできた。
けれど「君」の不在に向き合った今、これほどの喪失感を感じてしまっている。もともとそこに「君」はいなかったのに…本当に切ない。どうしたらこんな世界を作れるのだろうか。

달빛이 드리운 밤 
月光の降りる夜
그 빛에 널 위해서 춤추던 나 
その光のなか君のために舞を舞う僕
헛된 희망을 가졌던 건 혹시나 아닐까 
ひょっとして虚しい望みだったんじゃないか
뜨거웠던 용기마저 
熱かった勇気すらも

「君のために舞を舞う」
前2曲からの系譜を感じる。
けれどそんな自分の姿や熱く昂った想いすらも虚しいものだったんじゃないかと我に帰ってしまう。
本当に切なくて苦しい。

247 너를 찾아도 
247君を探し求めても
넌 날 알아보고 인사를 건넬까 
君は僕を見つけてくれるのだろうか
우리 둘의 13월의 기억이 
僕ら2人だけの13月の思い出は
조금은 남아있긴 할까 
少しは残っているのだろうか
무슨 말로 널 그리워해봐도 
どんな言葉で君に焦がれても
너로 고픈 내 마음은 채워지지 않아 
君に飢えた僕の心は満たされないんだ
247 너의 기억은 
247君の記憶
내 삶이 멈출 때까지 끝나지 않아
僕の命尽きるまで終わることはないんだ

「2人だけの13月の思い出が少しは残っているのだろうか」という言葉に驚かされる。
単に夢に出てきたとか、想像の世界の話だけではない。一度も逢ったことはないはずなのに、「僕」と「君」は13月というここじゃないどこかの時空の中で、確かに逢っていたのだ。

千と千尋の神隠しの台詞を思い出す。

一度あったことは忘れないものさ、思い出せないだけで。

きっとそういう世界で「君」と「僕」は出逢ったんだろうと思う。けれど「君」には思い出せなくても、「僕」は思い出せてしまう。
君のための舞を舞い続けても僕の目の前に現れてくれない。けれどどれほど焦がれて苦しかろうと忘れさせてもくれない「君」

そんな「君」の記憶と共に命の涯てまで生きていくのだと言う。

月に謡う

月灯のもとで舞を捧げ、四六時中探し求め彷徨い歩いてしまうほど恋しい「君」の歌。何よりそんな自分の状況に気づいてしまうところまで描かれていることがあまりにも切ない。

あまりにも切なくて、幻想的で、唯一無二で、
美しい。

そしてあまりにも美しいということの他に私が月三部作にどうしようもなく惹かれる理由のひとつは、「君」にSeventeenさんを、「僕」に自分を代入したときに共感できてしまうからだと思う。

いわゆる世間で言うところの「逢う」には当てはまらないけれど、私に至ってはまだ肉眼でその姿を映すことはできていないけれど、

それでも恋しさに涙を流す日もあったし
舞は舞えずとも詠うことを知ったし
月を見上げれば彼らを想わずにいられなかった。
人生の大事件と呼べる出逢いだった。

だとするならば「僕」は
247で「君」と“逢う”ことはないと知ってしまってもなお、虚しさに襲われてはいないのだろうと思う。

たとえ抱きしめることが叶わない出逢いでも
たとえ「君」が「僕」を知らないとしても
それでも確かに出逢って、人生に「君」が登場してくれたことが嬉しくて幸せなのだろうと思う。

Seventeenさん、ホシくん、
私にとっては、あなたたちが「君」だ。

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