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澪標

私が社会人になって一年と半年が経った。
不恰好ながらも気付けばここまで来ていた。

自分は何をしたいのか、どう在りたいのか、どうなりたいのか…そういったものを何ひとつ描けないまま社会に出て、ただただ目の前の仕事に追われるままに流れてきた。

そんな中、幸運にもカッコいいなと思えるひとに出会った。課内の2つ年上の女性の先輩。社歴は4年目。
仮にここではhaさんと呼びます。

「仕事ができる」「尊敬する」
有難いことにそういう人には沢山出会えたけれど、haさんにはそれを前提とした上で「カッッコいいなあ…」と思う。
正直仕事のスタイルをそのまま真似ようとするのは私には向いていないかもしれない。でも私は人として、haさんに憧れている。

到底言葉で書き尽くせるような方ではないけれど、自分がどんな人になりたいのかを考えるためにもhaさんのカッコいいと思うところを書き出してみようと思う。

自分の領分を守ること

私は配属されて間もない頃、haさんを怖い人だと思っていた。(本当にごめんなさい)
怖いというのは、あくまで厳しいという意味だ。
他部署からの照会の電話に対して「照会なら窓口はこちらです」「ここをこう調べたら答えが載っています」と厳しい口調で瞬殺していく姿が印象的だった。

けれど今なら分かる。
haさんは自分の仕事が増えるのが嫌だという理由だけで頼みを断っていたことなんて一度もなかった。
むしろ必要ならば他の課内メンバーの分まで代わりに答えている。

丁寧に答えればその場では感謝されるかもしれない。
正直断るより答えてしまう方が楽かもしれない。
けれど調べれば分かることなのに気軽に質問できる雰囲気を作ってしまえば、社内の照会への回答で本業の仕事が圧迫されてしまう。そして課内の他の人も同じ水準での対応を求められてしまう。

会社として果たすべき責務はどこにあるのか
お客様のために労力を割くべきなのはどの部分か
そのためにはどこを削ぎ落とすべきか

haさんは常にそれを考えて、守るべき領分をしっかりと守るために厳しい態度を取ることができる人だ。

綺麗事とも優等生ぶるとも違う温度で、haさんは「お客様のため」という基準を仕事の中心に据えている。当然だけど、当然なわけがない。

仕事をするというのはこういうことかと、haさんのそんな姿から教えてもらった。

手を差し伸べて、掴むこと

私はオフィスで泣いたことがない。
泣きそうになることは何度もあったけれど「泣いたら仕事が止まるからダメだ」という謎の意地でここまでやってきた。

けれど一度、ビルから出た瞬間に赤ちゃんのように大泣きしたことがある。
私が他の先輩方と同じ業務量を任せられはじめてすぐのとき、たたみかけるように鬼の繁忙期が来た。
タスクに溺れて、優先順位も立てれず、はじめて大量のタスクを残したまま休暇を取らなければいけなくなった日。

情けなくて、恥ずかしくて、申し訳なくて、自分が積み残したタスクの大きさもわからなくて、誰に助けを求めればいいのかも、助けを求めてもいいのかすらもわからなくて…そのまま家に帰ってからも布団にしがみついて泣き続けた。

そこからの数ヶ月は、本当に苦しかった。
夜中に目が覚めて泣きながら吐く日もあった。

新人だから、周りの方々は当然気にかけてくれる。
「大丈夫?」と声をかけてくれる。
「しんどい時は頼ってね」と言ってくれる。

けれどhaさんは
「これとこれとこれ、やっとくから早く帰りな」
と言ってくれた。

皆さんが手を差し伸べてくれたけれど、私はその掴み方がわからなかった。
そんな中で実際に私が追われている仕事の内容に目を通して、逆に私の手を掴んでくれたのはhaさんだけだった。

そもそも繁忙期にそれをできる余力がある人がどれだけいたかという話もあるけれど、自分の仕事が終わったなら早く帰ってゆっくりすればいいのに、haさんは空いた手を他の人のために使うのだ。

まるでそれが当たり前かのように。

気づいたらhaさんがフォローしてくれていた、という仕事がたくさんある。
あとでやろうと思っていたタスクがもう終えられていたということも何度もある。
言わなければその労力を誰にも気づいてはもらえないのに、haさんはそれを黙ってやってしまうのだ。
感謝してほしいとか、尊敬してほしいとか、評価されたいとか…haさんからはそういうものを一切感じない。
本当にそれが当たり前かのように、人に手を差し伸べ続けることを厭わない。

「感謝してもしきれない」という言葉があるけれど、私は文字通り、haさんに感謝しようとしてもしきれない。
だって私はhaさんに助けてもらったことのすべてを把握できていないんだもの。

手を差し伸べてもらえることは当たり前じゃない。
自分できちんと助けを求めることも大切だ。
けれどもしあの時haさんが私の手を掴んでくれなかったら…助けの求め方もわからない私が抱えていた荷物を取り除いてくれなかったら…
私はとっくに折れていた。

「大丈夫?」と手を差し伸べるだけじゃなく
「大丈夫じゃないな」と気づいて手を掴んでくれる

「大丈夫」と答えてしまうひとが多い社会の中で
haさんみたいなひとがいる組織は強いだろうなと思う。

人を育てること

新人教育を任せられているhaさん。

小さなこともたくさん褒める。
褒める中で仕事において大切なところを強調する。
聞かれたことにはとことん答える。
自分の休暇の時は新人ちゃんのフォローを周りに依頼して、調整していく。
新人ちゃんの成長を課内に発信する。
その中で課内の方々も初心に帰る機会をつくる。
「課で新人ちゃんを育てている」という雰囲気作りをして、繁忙下でピリピリしている課の空気を和らげる。
…挙げはじめたらキリがない。

絶対的な「正解」が存在しない新人教育を、繁忙期で周りからの十分なサポートを受けられない中で任せられ、それでもこれだけのことをhaさんはhaさん自身で考えて、実践してきた。

とにかく人としての熱量が違う。
私は絶対にここまでのことはできない。どこかで「はじめての指導役だし」と自分に言い訳してしまうと思うし、どこかで見返りを求めてしまうと思う。
多分haさんの中には明確な信念があって、周りから評価されるかなんて二の次三の次なんだろうな…

目先の自分の仕事の忙しさとか上司からの評価とかよりも、新人ちゃんをしっかり育てるということが、課にとってどれだけ重要な意味を持つかを誰より深く考えているひとだと思う。

賢いということ

haさんは賢い。
瞬発力と持久力を兼ね備えた賢さを持つ女性だ。

だからもっと「うまくやる」ということも出来るんだろうなと思う。
うまい具合に手を抜くとか、楽をするとか、
やった分だけ上司に評価されるようにアピールするとか…

でもhaさんはそれをしない。
haさんの中のプロ意識だけに従って、まっすぐそこに突き進んでいく。

その姿が本当にカッコいい。

周りに与えられた「正解」に要領よく辿り着く
…それも賢さのひとつでしょう。
けれどそもそもの「正解」を自分で考えて、設定することができるということが私にとっては何より賢いと思ったし、カッコよかった。

そして、その二つの賢さを両立させることができる人がいたのかと驚き続けている。
逆立ちしたって真似できない。

熱を持つということ

haさんは熱量がすごい。
熱血とかそういうのとはまた違うけれど、人としての熱量がある。

常に心が動いている。
楽しいとか嬉しいとか好きだとか
苦しいとかしんどいとか嫌いだとか
そういう感情が働き続けている。

そしてそれに従って行動をするとき、haさんは動き出しが速い。そしてめちゃくちゃ労力のかかることでもテキパキやっていく。休みがない。

これは仕事に限ったことではなくて、
「感情に従って自分の外に対して働きかけるということ」に関して、熱量が私と全然違うんだろうなと感じることがある。

私は自分の中で感情が爆発しているけれど、それが外に向かないタイプだ。そして外に向ける時には、圧倒的短距離選手。すぐ疲れるしすぐ飽きる。

だから本当に尊敬する。

感情が動くといえば、haさんはとっても人間味のある方で、仕事の愚痴もしっかり吐き出してくれる。
普段のテキパキ仕事をこなす姿からは想像できないくらい、がっつり怒りをあらわにして愚痴ってくれる。
私はこれが本当にありがたくて、haさんが愚痴を言ってくれるから「あ、こんな目に遭っているのは私だけじゃないんだ」「この仕事をするなかで、この辛さは黙って耐え忍ぶ必要はないんだ」と気づくことができる。

しんどくても辛くても自分のせいだと思い込むことで心を麻痺させよう、慣れようとしてしまっていた私が、ちゃんと苦しいことを「異常」だと認識できるのはhaさんのおかげだし、それを吐き出す場を作ってくれてるのもhaさんだ。

その一方、haさんは「好き」という感情もしっかり爆発する方で、最近では彼氏さんの惚気をたくさん聞かせていただいている。
「自慢の彼氏さん」なんだろうけど自慢されてる、マウントを取られていると思ったことは一瞬たりともないし、ただただ好きで幸せで、共有したいと思ってくださっていることが伝わってくるので私も口元がゆるっゆるになる。

ありがたいことに私のことも好きだと言ってくださっている。もともと後輩が好きだというタイプのhaさんは、すごく可愛がってくださるとともに「守ってあげなきゃ」という責任感も感じてくださっていると思う。

本当に本当に嬉しい、有り難くて仕方ない。
…それと共に、誰がhaさんを甘やかしてくれるんだろうかと思うことがあった。
haさんは今課内の主柱の1人だ。加えてここまで書いてきたような責任感とそれを実行するマインド・能力の持ち主で、haさんが私や周囲の人を助けることはあっても、それをhaさんにお返しすることができない。(まず真似ができない)
当たり前のように手を差し伸べ、周りの分まで仕事をして、けれどしっかり痛みを痛みとして感じることのできるhaさんを、一体誰が甘やかしてくれるんだろうと…余計なお世話だけど、ふとそう思うことがあった。

でも今は彼氏さんが驚くほど優しく、尽くしてくださる方のようで、私は本当に嬉しくてありがたい。

「怒る」ということも「好き」ということも、そのどちらもしっかり感じて表に出せるhaさんは、本当に魅力的だなあと思う。

澪標

「澪標」というのは航路を示す指標を意味する言葉です。「みおつくし」と読むことから、和歌では「身を尽くし」という意味を掛けられます。

私にとってhaさんは、まさにそんな人です。
haさんがいるから、私は自分の行く先や自分自身の心を見失わずにここまで来れました。

多分haさんは「身を尽くしている」と言うと否定するのでしょうし、本当に不思議なことに私もhaさんに「尽くす」という言葉は似合わない気がします。
でもhaさんが普段周りのためにベストを尽くし続ける姿を、私は他にどう表現したら良いのか分かりません。

なんというか…私はhaさんに絶対報われて欲しいと願っています。仕事の評価とかそんな話じゃなくて、もっと大きな意味で、人生レベルで報われて欲しいです。

haさんの行く道の信号は全部青であって欲しいし、クジは3回に1回当たって欲しいし、全ての買い物は成功して欲しいし、口に入るもの全て美味しくあって欲しいし、haさんを取り巻く人みんなhaさんを大切にして欲しい。

私がその一部になれるか自信はありませんが、そう在りたいと願って止みません。

とりあえずまたランチに行きましょう。
そして「なにこのブログ恥ずかしいんだけど〜!」と笑ってやってください。私は多分いつものように「でへへっ」と言います。

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