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広沢タダシさんの新譜が素晴らしい

大好きなシンガー・ソングライター広沢タダシさんの新譜を買った。広沢さんのサイトで買ったら大きく名入りでサインをいただいた。なんだか恥ずかしい。

広沢さんを初めて聴いたのは2006年のアルバム『アイヲシル』。これは天才様だと思って後追いでメジャー時代の作品を聴いてみたけれど、その後メジャーから自主レーベルでの活動になって、むしろそれからのほうがバシバシと名曲、名アルバムを作っておられるように感じる。前作の『SIREN』も(確か)ロンドン録音らしい湿り気とブリティッシュロックへの愛が見えて素晴らしかった。

メジャーが悪いとは思わないけれど、メジャーが音楽の枷になることはあると思う。かたや、自主レーベルで自由を得たかと思ったら一気に質を落としてしまう人もいる。広沢さんは、むしろどんどん研ぎ澄まされている気がする。自主レーベルから大ヒットを飛ばすのは限りなく難しいけれど、お前はどっちが好きかと聞かれれば間違いなくこっちだ。

馬場俊英さんもそうかもしれない。メジャーを一回クビになり、そのあと復帰してから名曲をたくさん生んでいるけれど、個人的に思い入れが深いのは、やっぱり自主時代の3枚のアルバム。中でも『フクロウの唄』はメジャーを切られたあとの絶望と希望、作品を作って生きることの喜びや不安がそのまま閉じ込められているようで、素晴らしく感じつつも聴いていて切なくなる。

今回の広沢さんのアルバムには、『フクロウの唄』に似た雰囲気を感じる。コロナの外出自粛中に広沢さんがYouTubeで配信していた自宅ライブから生まれたアルバム。決してコロナで不安だとかそういうことを歌っているわけではないけれど、音楽家としてどうなっていくのか、どうしていくべきなのか、そもそも音楽という「生業」はどうなってしまうのか、そんな不安が垣間見れる気がする。だからこそ生まれたのかなと思わせる名曲がたくさん詰まっている。勝手な推測ですが。

イタリアの作家が書いた『コロナの時代の僕ら』というエッセイがある。イタリアで感染が拡大し始めてから数日間の心境をただ綴っただけのエッセイだけれど、読み進めるうちに感染の足音がひたひたと迫ってくるような緊迫感を覚える。その感覚にもこのアルバムは似ているかもしれない。このコロナ禍の空気を、ある意味とてもリアルに詰め込んだ作品なのかなと思う。はい、勝手な推測ですが。

いつか、いちライターとして、そのあたりのお話をうかがってみたい。もう少しでデビュー20周年のはずだから、その頃にできたらいいかな。

いま夜中の2時。こんな真夜中にこれを書こうと思ったことは、このアルバムが『NIGHT SONGS』というタイトルであることときっと無関係ではありません。夜更けの空気にしっとり溶け込むアルバムです。

https://www.hirosawatadashi.com/

たかはしあきひろ…福島県郡山市生。ライター/グラフィックデザイナー。雑誌、新聞、WEBメディア等に寄稿。CDライナーノーツ執筆200以上。朝日新聞デジタル&M「私の一枚」担当。グラフィックデザイナーとしてはCDジャケット、ロゴ、企業パンフなどを手がける。マデニヤル(株)代表取締役