受賞してもまだ本は出ない? <小説家になる>
受賞した原稿が発売されるまでには、【改稿】という作業があります。福ミスの先輩や同期デビューの作家さんに聞くと、大変だった人もいれば、ほとんど【改稿】がなく、そのままゲラになって校正、校閲に進んだと言う人もいました。
賞によって、あるいは応募原稿によって様々なようですが、今日は私の受賞作『さよならをもう一度』(『幻の彼女』に改題)について書いてみます。
受賞までの流れはこちらの記事をどうぞ。
福山での盛大な記者発表会の後、島田荘司先生と光文社の編集の方と一緒に、喫茶店で改稿について話し合いをしました。『占星術殺人事件』のあの島田先生です。大変緊張したことを覚えています(しかし、しっかりサインをいただきました)。
先生からの選評は読んでいましたので、とても感動していましたし、問題点の指摘をしていただくことが楽しみでした。
「改稿、大丈夫ですか」とおっしゃる先生に「喜んで」と答えたものです。
島田荘司先生からの改稿オーダー 10月
『幻の彼女』はごく簡単に言うと、主人公の元カノ三人、全員が消えてしまうという話です。気づいた主人公は彼女たちを探して、思わぬ真相にたどり着く、それが骨子です。
先生に言われたことは『幻の彼女』の巻末の選評に詳しいのですが、かいつまんで言うと
消えた三人の彼女のことをもっと掘り下げて、物語の中心に据える。原稿の枚数も少ないのでボリュームアップする。
そういう内容でした。
原稿用紙で100枚分追加!
東京に戻ってあらためて、応募原稿の元になったプロット資料、「シーン表」「時系列表」などを見直して、修正箇所を吟味しました。三人の彼女のプロフィール、主人公との出会い、彼女たちを取り巻く知人たちの証言、そしてそれを調べ歩く主人公。すべて見直しました。
修正は修正を呼び、追加シーンも膨れていきます。私も先生の期待に応えたくて、テンポよりも描写を厚くすることを心掛けました。結局、新たに一章を追加して、書き上がった原稿は応募した時の380枚から480枚まで増えたのです。
島田先生の選評への返事を書くつもりで
その後、改稿原稿を読まれた先生と東京のルノアールで再会しました。さらに手直しが必要だと感じている先生は「このままでも大丈夫だとは思いますが……」と遠慮がちでしたが、ここまできたら先生に満足してもらわないことには、私も納得できません。
そして年が押し迫った頃、再度改稿した原稿に先生からOKをいただきました。ですから発行された本は、島田先生からの選評への返事、という思いがあります。
時々勘違いされることがあるのですが、選評は受賞したときに書かれたものです。発行された本は選評で指摘されたことは改稿されているのです。おそらく他の受賞作も問題点をそのままに出版することはないはずです。
編集さんからの指摘も受けて、完成稿へ 12月
一息ついたら、今度は編集さんからのアドバイスが入ります。細かい矛盾、辻褄の合わないところの指摘などに、冷や汗を書いた記憶があります。こうしてブラッシュアップを重ねた原稿はようやく完成稿となり、ゲラが出ることになりました。初めてゲラを見たときは……感動しました。
写真は初校ゲラの一枚目です。知り合いの作家さんと話をすると、やはり最初のゲラは取っておく人が多いです。
そして実際の本と同じ段組、体裁になった原稿を確認し、校正が入ったゲラに私が修正を加え、再校正ゲラが出ます。それを確認、修正を加えて戻します(ゲラからはデータではなく、紙のやり取り)。
思ったよりもずっと長い改稿作業が終わり、原稿はついに私の手を離れることになりました。
福ミスは福山市のことを書かないといけない?
福ミスの主催は、福山市と福ミス実行委員会です。発売された『幻の彼女』に福山市のバラ園のシーンがあるものですから、福山市のことを書かないといけないと思う人が多いようですが、そんなことはまったくありません。
あのシーンは受賞した後に追加したのです。新たに追加した一章です。
元々、バラをモチーフにしていた小説ですから、主人公が元カノを追って故郷を訪ね、母親に手ひどくはねつけられるシーンを追加すると決めた時に、記者発表会の前に訪れた福山市のあのバラ園を舞台ににしよう、と思ったのです。
賞を受賞するにあたり、福山市の方々に本当によくしていただきました。福山が大好きになったので、福山のシンボルのバラ園を登場させたら、お世話になったみなさんに喜んでもらえるかな、とは思いましたが。
※なお、私は福ミスの前に「かつしか文学賞」を受賞していますが、こちらは募集要項に「葛飾区を舞台にそこに暮らす人々のふれあいを題材」とありますから、葛飾区のことを書かないといけません。
以上、改稿の話でした。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
【予告】次回、タイトルと表紙
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?