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Imperfect Days

五月晴れを絵に描いたようなぴっかぴかの晴天。眩しい陽光を受けた新緑が映える道中、ハンドルを握る私の耳に流れるのは、映画「Perfect Days」のサントラ。
KinksのSunny Afternoonを聴いていたら、その曲にはない「lame」という言葉がなぜか思い出されて、それと一緒にとある人物がセットで頭に浮かんだ。彼はよくその言葉 - lame - を口にしていたからだ。

彼の近況を聴いたのはつい先週のこと。かつての職場の仲間と数年ぶりにランチを共にした時のこと。彼も同じくかつての職場の仲間で、ランチの相手は彼とコンビを組んで仕事をしていた。当時私はたまに彼らのサポートをする程度だったけど、同じ職場なので毎日のように顔も合わせていた。東部出身らしく表情は乏しいが、皮肉やブラックなジョークをよく言っていた印象がある。

仕事終わりにたまたま駅で出会い、途中まで一緒に帰ったことがあった。元々無口な彼と、自分から話題を振るのが苦手な私、おまけに英語と日本語という言語の違いもあり、雑談は思う以上に進まない。ただ気まずい時間だけが過ぎていく。それでも何とか話題を探してぽつぽつ話す。私の地元の話になり、少し話が盛り上がったような。言語の話にも触れ、かつて日本語を少し教えていた頃の教材など本を後日貸してあげたりもした。

ある年の夏には彼の誕生日を職場の仲間皆んなで祝った。ランチにレストランを予約して、誕生日のメニューもオーダーし、お店のスタッフも一緒にバースデーソングを歌った。件のコンビ仲間が代表してお祝いの言葉を言っていた。晴れがましいサプライズの席で、彼は照れながらもいつもよりは少し表情が豊かだったように記憶している。

職場の女性陣から男性陣に送ったバレンタインのお返しに、ホワイトデーにはチョコを使って机の上に感謝の文字を書くという、粋な演出を思いついたのも彼だったと聞いている。

とあるプロジェクトのローンチの日。彼にとってはこの会社での初めてのビッグプロジェクトだったと思う。無事に初日を迎え、彼に似つかわしくなく喜びをいっぱい表現し、件のコンビ仲間を含むチームのみんなにも感謝の言葉を沢山述べていたように思う。とにかく仲のいいコンビで、周りも羨むほどだった(実際私はあまりの仲の良さに私にもこんな仲間がいたらとちょっぴり嫉妬するぐらいだった)。

思えば、あの時代が一番良かったのだと、今振り返って実感する。

2024年現在、彼は職場を去ってしまったそうだ。
詳しくはここでは書けないけれど、先日ランチを共にしたコンビ仲間から聴く限り、要するに「信頼を壊す」ような行為を彼がしたらしい。

きっかけはコロナだった。コロナで在宅勤務になり、仕事仲間と会わない日々が続き、プロジェクトもどんどん凍結になり。
業務自体がどんどんなくなり、やることがない、何をどうすればいいのか、ただただ日々が時間が過ぎていくのを見てるしかなかった時期。

彼はその間、仲間にも「救えない」と言わせてしまうような振る舞いをしていたようだ。

それほど親しくしていたわけでもないので、彼自身がどれほど誠実だったのか、あるいは信頼を裏切るような行為は決してしないような人物だったのか、知る由もない。仲間を思うそぶりも彼の中に見ていただけに、この顛末を聴いてやはり残念に思ったけれど、同時に時折垣間見えた弱さのようなものが、コロナで人と会わないうちに育ってしまったのかなぁ。そんな風にも思われた。君がよく口にしてたlameという言葉、皮肉にも今の君を言い当ててるんじゃないか。

これを書きながら、コロナのために契約が打ち切りになり、去っていった多くの仲間のことを思い出した。会社に留まるという選択肢さえ奪われてしまった彼らと、その一方で自ら去らざるを得ない状況を招いてしまった者と。

どうしてるんだろう、彼らは今頃。

ランチの席でサラッと経緯と顛末を話してくれたコンビ仲間が一番ショックだっただろうと思うけど、彼女は既に前を向いて歩き始めていた。また近いうちにランチしましょうと言って別れ、それぞれのオフィスに戻っていく。彼らと共に仕事した時期もコロナも、今から思えば夢のような過去の出来事のように感じられるけど、確かにそこにあったんだよな。

そんなことを思い出しながらアクセルを踏む。初夏に差し掛かった窓の外の陽射しは少し強く、車道に落ちる黒々とした影を踏みながら車を飛ばした。








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