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恋するカレン - マン=ウェイルと歌謡曲

ロンバケ(A Long Vacation)が40年経っても色褪せないのは、このアルバムが日本人の琴線に触れる歌謡曲集であることが理由かも知れない。大滝さんご本人も、このアルバムを「青春歌謡」と呼んでいる。
「80年代、これまでやってなかったところの歌謡をやってみたんだけれども。その時に何なんだろうと思ったんだよ。歌謡に対するある種のコンプレックスみたいな…。俺が、というより周り全体ね。そうせざるを得なかった時期があって。その時期には俺もそういう要素を表立っては出さなかった」
という大滝さん。では大滝さんの考える歌謡曲とは? これもまたご本人のコメントがある。
「キング=ゴフィン(Carole King = Gerry Goffin)つうのはナンダかっていうと《唱歌》なのよ。輸入した賛美歌だとかああいう唱歌的なものでまだ百何年なんだよ。あのキャロル・キング調のものって、唱歌的なものっていうのは輸入したもんだから。で、“マン=ウェイル(Barry Mann = Cynthia Weil)”はやっぱ《歌謡》なのよ」
なかでもカレンについては
「マン=ウェイル “丸々” だってよく言われっけども(笑)。オレの中でのマン=ウェイルは「カレン」なんだよ。だからカレン好きな人が多いのは、日本は《歌謡》じゃないと、あの大きな、あのメイン・ロードをつかめないんだよ」

ロンバケ=歌謡曲=マン=ウェイルで、その典型がカレンだとしたら、マン=ウェイルを聴き込むことでロンバケがさらに楽しめることになる。
さて、思いつくままにマン=ウェイルの曲を上げてみよう。
・On Broadway - The Drifters
・Uptown - The Crystals
・Johnny Loves Me - Shelley Fabares
・You've Lost That Lovin' Feelin' - The Righteous Brothers
・You Baby - The Ronettes
・Walkin' In The Rain - The Ronettes
・Only In America - Jay And The Americans
・Love Her - The Walker Brothers
・Shades Of Gray - The Monkees
・Rock And Roll Lullaby - B.J. Thomas
・Looking Through The Eyes Of Love - The Partridge Family
モンキーズの「灰色の影」やライチャス・ブラザーズの「振られた気持ち」など日本でのヒットを見ても、キング=ゴフィンの洋物と違う湿度感が日本人の感性に合うことがわかる。これが大滝さんの考える歌謡曲のカタチだったのだろう。


さてロンバケでは天然色とカレンがもっともスペクターを意識した曲と言われている。カレンの分厚いオケは、上に挙げた「振られた気持ち」やロネッツの2曲に通じる音だ。しかしこの曲がシングル・カットされた当時、カレンはウォーカー・ブラザーズの「太陽はもう輝かない」に似ている、というハナシがあった。大滝さんの好きなフォーシーズンズのボブ・クリュー=ボブ・ゴウディオの作品で、彼らが「イギリスのスペクター」作品を目指した曲としても知られる(とはいえウォーカー兄弟もクリュー=ゴウディオもアメリカ人なのだが)。ツイン・ボーカルのライチャスと違い、兄弟モノでもスコット・ウォーカーの歌メインのこちらは確かにカレンのイメージに近い。さらに言えば「太陽はもう輝かない」の初出はフォーシーズンズのフランキー・ヴァリのソロ。こちらのほうがカレンのイメージに近い。

もうひとつ付け加えると、フォーシーズンズのヒット曲「Rug Doll(悲しきラグドール)」にも、カレンの面影を見て取ることができる。

しかし、カレンは歌謡曲なのだからマン=ウェイルでなければならない。
「要するに日本の流れの歌謡っていうのを真面目に歌手として歌ったのはあの3年間だけなのよ。僕はあれで歌手としては十分だったの。あれ以上できなかった」
ロンバケ〜Each Time はホンキで歌謡曲をやろうとした3年だというからには、カレンはマン=ウェイルでなければならない。そこで最後のコーラスを、以前書いたB.J.トーマスの「ロックンロール・ララバイ(もちろんマン=ウェイル)」で締めた。

こういう重層的な組み立てが大滝さんのどの曲にも隠れている。その方法論が後の「分子分母論」へ発展したのだと思うのだが、どうだろうか?

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・You've Lost That Lovin' Feelin' - The Righteous Brothers

・You Baby - The Ronettes

・Walkin' In The Rain - The Ronettes


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