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泳げキング・クレオール

大滝詠一はエルヴィス・プレスリーの曲を全部フリ付きで歌えたそうだ。そのエルヴィスが敬愛していたのがジェームズ・ディーン。本来はディーン主演で撮るはずだったが突然の事故で配役がエルヴィスに回ってきた「闇に響く声(KING CREOLE)」。このテーマ曲「King Creole」はなぜかアメリカでシングル盤が切られていなくて、ヨーロッパと日本だけで出ている。
一時期はかなり高額だったこのシングルをようやく手に入れて針をおろして見ると、アタマに浮かぶのが「泳げカナヅチ君」、『ナイアガラ・カレンダー』の7月に収められた曲だ。


カナヅチ君の独特な唱法はエルヴィスのスタイルを踏襲している。その下敷きとなっているのが「King Creole」。しかしそれでは終わらない。エルヴィスのバックでコーラスをつけていたジョーダネアーズの代わりに、ここではジャン&ディーンばりのサーフ・コーラスとデュアン・エディのようなサーフ・ギター、おまけにザ・ゴーゴーズで日本のみで流行った「チッキン・オブ・ザ・シー」を思わせるチッキン・ピッキン(鶏の鳴き声のようなギターフレーズ)」まで聞こえる。
大滝曰く「僕の元ネタは1曲で最低20曲はあるからねぇ」を彷彿とさせる曲作りだ。


さて「King Creole」に戻ろう。
この曲、エルヴィスに「ハウンド・ドッグ」をカバーされて一躍注目された作曲コンビ、リーバー=ストーラー(Jerome "Jerry" Leiber & Mike Stoller)の手によるもの。この曲のヒットで2人を取り込もうとしたエルヴィスの代理人、パーカー大佐に懇願されて書いたものだ。
ここでまた大滝に戻るが、彼は2000年NHKラジオに出演した際「『ナイアガラ・ムーン』は、リーバー=ストーラーに挑戦したアルバムなんじゃないかと思うんだけど」と発言している。しかし「日本じゃ難しいんだよ、リーバー=ストーラーって絶対。日本の楽曲になりえないもの」とも。
大滝は中高生の頃歌詞を覚えるのに飽きて好きな曲の作詞作曲家リストを作っていたそうだ。するとフレッド・ワイズ=ベン・ワイズマン、ドック・ポウマス=モート・シューマンと共にリーバー=ストーラーの曲が沢山リストアップされたそうだ。
大滝のアメリカン・ポップのルーツと言っていい。


はっぴいえんどのアメリカ録音の帰り、彼は細野にこういったそうだ。「ヴァン・ダイク・パークス(さよならアメリカのアレンジャー)はブライアン・ウィルソンがやってる現場を見てるわけだし、ブライアンはスペクターを、スペクターはリーバー&ストーラーを見てきたんだよ。ここで、オレの聴いてきた音楽が全部つながったの、一線に…」
リーバー=ストーラーを聴いてるとドリフターズ、コースターズといったドゥワップにも行き着く。この幅をグンッと圧縮、換骨奪胎の跡が残らないほど自身に取り入れて出来上がったのが、西洋人にはマネのできない洋楽アルバム「A Long Vacation」だったのだと思う。

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