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台詞の記憶

私は以前創作漫画を描いてアップしてたんですが
その時からずっと思っていたのが
「タイトルも登場人物も
ストーリーの大枠も忘れてしまっていい。
ワンシーン、一つのセリフを覚えていてくれれば」
というのがあります。
どんなに小さくても記憶してもらえたら。

それで、私が記憶してる台詞は?というと、思いつくのは
「お前たちのその振る舞いが、私をより簡単にする」
という独白。

「王様とごちそう」だったかな
大前田りん作の。

多分絶版です(短編集「十六桜」所収)

架空の中世ヨーロッパ風世界。
主人公の美しき富豪が、人の道を外し
最後にゆるゆると堕ちてゆく、そんな物語です。
件の台詞は、主人公が権力者から自分に協力しなければ首が飛ぶぞ、というような恫喝をされたときの独白です。
財力と怜悧な頭脳を持つ彼にとって、
権力者は恐れる対象ではなく、あくまで世渡りとして人の道を踏み外す。
その意志を表現した台詞です。

簡単に、踏み外す、その代償は
身近な愛していた者からもたらされた。
それを予知しているような冷めたこの台詞を
これからもずっと、覚えていくでしょう。

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