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「日本のアニメが世界で負ける?」を検討しました。

(見出し画像は日本動画協会「アニメ産業レポート」より)

10月17日に『「このままでは日本のアニメが世界で負ける」は的外れ? 海外で広がる“日本風“アニメ』という記事をYahoo!個人に寄稿しました。この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部と共同で企画したものです。契約の関係で具体的な数字は書けませんが、Yahoo!トップページにも一時掲載され、びっくりするようなアクセスがありました。

どんな記事でもそうですが、アクセスが多くなると批判的・懐疑的なコメントも頂くことになります。ネット上には「文化的には負けないかもだけど、経済的には負けるのではないか?」「現場の労働環境が改善されなければ海外での人気以前に立ちゆかない」といった声もありました。

中国はあまりにも特殊な状況にある

「○○で日本が負ける」あるいは「○○で日本が勝つ」といった記事は、端的に言えばバズります。当初、編集部からの依頼も「日本のアニメが負けるという記事を最近よく見かけるが、実際のところどうなのか?を検討して欲しい」というものでした。例を挙げると以下のような記事が象徴的ですが、中国や韓国でアニメの制作技術が上がっており、特に中国においては資金力も豊富なため、日本のクリエイターの囲い込みも始まっている、というものです。家電や半導体の次は、アニメが負けるのではないか、という連想も背景にはあるように思えます。

くわえて、コロナ禍を受けて制作市場(=アニメ制作会社の主に受注金額)が減少したことも、その印象を強くしているようです。

たしかに中国市場は巨大で、長く国内アニメ制作産業の振興育成を図ってきた成果が、幾つかの作品で確認できます。

しかし、中国では習近平指導部のもと「文化大革命」の再来かと思えるほど苛烈な文化統制が進んでいます。数年前までは中国資本による日本のスタジオの買収や、作品の買い付けが積極的に行われていましたが、中国で放送・配信できなくなった作品が続出し、その動きはほぼ無くなったというのが現状です。これは日本のアニメだけでなく、ハリウッド映画やK-POP、オンラインゲームなど多くの領域に及びます。

中国はたしかに大きな市場ですが、世界市場のなかで日本のアニメがどのように位置づけられるのかを考える際のベンチマークとするには、現状あまりにも特殊な状態にある、と捉えるのが妥当でしょう。

富の源泉は原作著作物=マンガである

冒頭に挙げたYahoo!個人の記事では、アメリカのアニメ配信大手でソニーが買収したことで注目を集めるCrunchyroll(クランチーロール)と、海外アニメファン向けSNSで、国内取次大手メディアドゥがやはり買収した「MyAnimeList」を取材し、実際のところ日本のアニメがどのように支持を集めているのかを確認しました。

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Yahoo!個人記事より

結論から言えば、上記の人気ランキングのように現状では中国アニメの存在感はなく、韓国のウェブトゥーン原作が目を引き、そして週刊少年ジャンプ原作作品が上位を占めている状況です。ウェブトゥーン=スマホに最適化された縦読みマンガへの対応は急務ではありますが、タイトルの人気で中国に負ける、といった見立てはやや無理があるように思えます。

「アニメ制作」という産業の一部に注目すると、例えば今後こういったマンガ・ウェブトゥーン原作を海外のスタジオがアニメ化する、ということはあり得るでしょう。しかし、CGの導入が日本のアニメスタジオでも急速に進んでいますが、「セルルック」と呼ばれる日本風アニメの分野では、日本のスタジオが原作者・出版社とのコミュニケーションという面でも優位にあるのも事実です。そして、記事で書いたように、あるいは自動車産業がそうであるように「どの国や地域でそれが作られているのか」というよりも、その著作権・ブランドの源泉がどこに属しており、それがどのようにコントロールされているのかが重要です。

つまりこのように見ていくと、日本のアニメが云々、というよりも、日本のマンガが海外でのウェブトゥーンの拡がりにどう対応できるか、という点が注目すべきポイントであることがわかります。日本のマンガ産業は、その表現の多様性と週刊マンガ誌と単行本コミックという2段階のバリューチェーンによって世界に類を見ない発展を遂げてきました。今後これがどうなっていくのか、わたしも取材・研究を通じて注視していきたいと思います。

※この記事は日経媒体で配信するニュースをキュレーションするCOMEMOキーオピニオンリーダー(KOL)契約のもと寄稿しており日経各誌の記事も紹介します。詳しくはこちらをご参照ください。

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