見出し画像

僕らの砦(詩)

8ビットの荒野で僕らは
ただ世界が壊れてゆくのを待っていた
空の青みがポリゴンフラッシュに変わっていくのを
外で鳴る雨音が止み、世界中のデジタル時計がフリーズするのを
深夜3時、真っ暗な部屋の布団の中
棘だらけの蔦が絡み合う夜の中央で
唯一の灯りは手元の携帯ゲーム機だけ
ランタンのように暖かく
饕餮のように凄い勢いで時間を
食らってゆくそれは
僕らの砦であり僕らのアサビケシンだった
砦の中で僕らは果たし合い
憎みあい、傷を舐め合う
連合を組み、世界に宣戦布告をし
青春の1ページをドブに捨てる
切れて落ちたらそれっきりの
脆弱な回線の上で綱渡りをして
優しく眩しい高速wi-fiの海に飲み込まれる
それから、泳いで
それから、沈んで
それから、溺れて
それから、魚になる
神話無き虚像の世界に日差しが刺すと
現実の電源を切って
僕らは砦から出征する
夕暮れまでスターリングラードの
肉壁に取り込まれ、塹壕の中で殺される
もう飽きたのに、毎日毎日、やんごともなく
だがもう虚像の世界にはガタが来ているんだ
小さな割れ目が広がって、崩壊へと収束する
もう誤魔化しもきかなくなって、着実に
8ビットの荒野で僕らは
ただ世界が壊れてゆくのを待っていた
真っ暗な部屋の布団の中
現実が砦へと帰化するのを
本当はずっと待ちくたびれていた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?