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迷嘔星 機関報 冬号

「まじでエビフィレオ美味いっす。こんな美味いもん産まれて初めて食べました!幸せだなぁ!」
深夜、およそ全国数百店舗あるマクドナルドのどこだかの1店舗、2階壁際の席で、物凄い勢いでエビフィレオのセットにがっつく、いかにも育ちの悪そうな少年と向かい合わせで座っていた。


歳は12~14才くらいだろう。しまむらか何処かで買ったいかにも田舎のヤンキーが着てそうな龍のプリントがされた黒いパーカーを着て、脱色もせずに市販の染め粉を使ったような垢抜けない茶色に髪を染めて、その癖いっちょ前にピアスなんかをしている。


向かいでマックシェイクのsを啜っている俺は、多分状況的にその不良少年にマックをご馳走しているのだろうが、なぜ知り合ったのかも分からないし、その少年が何者なのかも分からない。そもそもの話ここがどこなのかさえも分からない。
ただなんとなくの懐かしさというか、落ち着きというか、ひどく安らかな気分であったのは確かで。まるで10年来の友人と久しぶりに会ってるような、不思議な幸福感に包まれていた。
店内の暖房が効いていて、暖かかったからなんだろう。きっと。

これは昨晩見た夢の話だ。(あとは支離滅裂で覚えていない。)


ふと思い出した2012年という時代、もう11年ちょっとも昔の話だ。
ニュー速vip板ではSEKAI NO OWARI(旧世界の終わり)がさも異教徒の如く叩かれていて。げんふうけいの人は人を自殺させるだけの簡単なお仕事を紹介して。LINEやTwitterはカゲロウデイズのキャラクターのアイコンで溢れ。
クラスメイトは全員親のAppleIDを勝手に使ってパズドラに平均2万くらい課金したような。
あちこちでAKBとEXILEが流れていて、
「何一つ不自由の無い世界で何故か満ち足りない僕ら」という馬鹿みたいなイデオロギーが時代を覆っていた悲惨な年だ。
当時左翼ヒッピー系のフリースクールに通ったり、時々中学の方に顔を出したりする、ニワカイキリオタク中学生だった自分の主観では。

ええと、どんな奴がいたかな?

H岩は嫌われ者だった。傍から見ても分かるくらいに家庭環境が悪そうで。本来なら図書室の片隅で陰キャグループ(←関西では当時からそんな言葉があった。)に混ざっているような奴なのに、不良に憧れ、あまり学校にも来なかった。調子乗ってハットリに喧嘩売って、ボコボコにされた。それで学校に来ても一軍グループからは嫌われ、何故か陰キャグループから執拗な恨みを買っているような奴だった。
俺は良く遊んでくれたし、こいつは好きだった。1人でも味方が欲しかっただけなんだろうけど。


山本(こいつに関しては名前を出してもいいだろう。こんな記事誰も見てないし。バレたら今度なんか奢る。)は例のハットリの弁当ひっくり返してボコボコに詰められてた。当時から学内でも独自のポジションを築くのが得意で、上手いこと中高時代は立ち回っていたっぽかった。
クラスは3年間1回も被ったことは無かった。


S田は死ねばいいと思う。ゴリラみたいなニキビ面で、定時制ギリギリの馬鹿高にしか行けなかった低脳の癖に、しきりに俺に対してお前みたいな奴高校なんか行けるわけない、みたいな難癖を色々とつけてきやがった。自分より下の奴だと認識してたのだか知らないが、本当に毎日死んで欲しくて大嫌いだった。卒業式の日、中学のクラスも最後だと思いきって喧嘩売ったけど、自分でケツも吹けずに当時クラスを仕切ってたN人呼んできて、結果俺がN人に詰められた。最後までダセーよな。気持ち悪い。まじで死んでて欲しいな。アイツだけは。


しょちんはLINE民だった。やたらと痛々しいLINEの名前とUnicodeとマクロを使いこなし、学校にも来ずにインターネットの世界でなんだかいつもワイワイやって楽しそうだった。
良くオフ会なんかもやってるのかやたらとイキった格好して。オタクの癖にピアス空けたり、髪の毛染めたり。
いつも遅刻か欠席してくるので、クラスが一緒の時はコイツたぶん俺より遅れてくるし、なんて散々自分の遅刻と無断欠席の言い訳にした。
そこまで仲良くなかったけど。


.....そうだ。
しょちんだ。しょちんなのだ。
夢に出てきた育ちの悪そうな少年は。
それにしてもお前は本当に何にも変わってない。元気にしてた? 今何してんの?そんなこと知りようが無い。当たり前だ。14歳以降アイツに会ったことなんてないんだから。
あぁそういえば昔、仲も大して良くなかったのに、何故かしょちんと学校を抜け出してコンビニに行ったことがあったのを思い出した。
どういう経緯でそうなったのか覚えてないけど。一緒に万引きしたような気がする。結局俺はチキって何も盗らなかったような気がする。
先生に追っかけられながら校門をよじ登ったような気がする。
全部俺の記憶違いのような気もする。


それにしても頭の片隅に僅かに残っていた、12年も前の記憶の曖昧な残滓がなんで今頃になって俺の脳を乗っ取って夢を見させたんだろう?
それでなんでアイツは俺に対して敬語だったんだろう?
今になってなんだか無性に再会してみたい。それで何でもいいから一言喋ってみたい。会話なんか5秒続くかわかんないけど。


拝啓、もうどこにも存在し得ない14歳のしょちんへ。
ほんとーに大して喋ったことも無かったし、遊んだことも数回しか無かったしょちんへ。
あなたが今どこで何をしてるのかなんて知る由もないし、興味もないけど。
もしかしたら、俺がもっとちゃんと中学校に行ってれば、友達になれてたのかも知れない。
もしかしたら、今でも地元に戻ったら遊んだりしてたのかもしれない。
多分。俺はあなたのその存在に安堵してたんだ。ウマが合うところがあったのかもしれないし、単純に同じ不登校(?)仲間として深層心理の世界で勝手に仲間認定していただけかもしれない。
でも今はただ14歳のあなたに無性に会ってみたい。夢で見たっていうよくわかんない理由で。

もう会えないってこと、知ってるからこそ。

イオンモールのすぐ裏の、球技場の隣の、ファッキン京都市立N中学校。
桂川はドブ臭くて、四中と西中と常に抗争してて、俺らの代はK吾がシメてて、かと言って別に荒れてたわけでもなんでもなかった、よくわかんない檻みたいな世界の全て。
みんな親元でしか暮らせず、それなのにプライドだけは高くて自分は大人だなんてアホみたいに信じ込んでた、モーター空也の瞬き心裏、
猿の爪楊枝、全裸のダダカン、首筋の百合、
サイコ鳥頭、血溜まり頭巾...etc

ーおわりー








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