諏訪ななかさんの1stライブに参加した話……をする前の話。


諏訪ななかさんを知っていますか?

――そう訊かれて「知らない」と答える方は恐らくこんなところに辿り着いていないと思いますが、一応一言で説明すると声優さんです。一番有名な出演作品は「ラブライブ!サンシャイン!!」の松浦果南役でしょうか。先日(11/22)彼女の1stライブに参加してきましたので、そのお話をしたいなと思います。

……と考えていたのですが。

彼女のパーソナルな部分については各自wikipediaあたりに訊いていただくとして、今回はライブの話の前に個人的に諏訪さんに対して感じていたことについて振り返ったりなんかしながら、だらだらと語りたいと思います。

■「ソロデビュー」ということについて

前述の「ラブライブ!サンシャイン!!」に登場するAqours9人、彼女たちのライバルという位置付けのSaint Snowを含めれば11人。その中で見たときに、彼女はお世辞にも「歌が上手い」とは言えないタイプだと思っています。特に高音については元々の声が合わないのか、あるいは技術が追い付かないのか、ライブなどで彼女の高音パートが近付く度に一抹の不安を覚えることが多いというのが正直なところでした。もちろん、11人の中には以前よりアニソン歌手を志していた人や実際に歌手としての経験がある人もいますので、元々歌唱面で大きなアドバンテージを持つ彼女たちと比較するのは少々酷と感じる部分もあります。しかしそれでも――いや、だからこそ、諏訪さんの「歌」はより際立った弱さのように感じてしまっていたのかもしれません。

もっとも、それもこの5年間で随分と変わったように感じます。努力の人。彼女自身はそこまで口数多く自分のことを語る人ではありませんが、聞こえてくるエピソードからは妥協を許さないストイックな一面が窺えますし、実際ライブなどで「音外さないかな」「ちゃんと声出るかな」と祈るような気持ちでステージを見守る場面は、以前に比べてかなり少なくなりました。

とはいえ、Aqoursの5thライブが終わって以降、立て続けにメンバーたちのソロあるいはユニットでのデビューが発表されていく中で、彼女もまたその流れに乗ったことについてはそれを祝福する気持ちがある一方、不安もありました。Aqoursではない彼女が、”ソロアーティスト”としてどこまで勝負することができるのか(もちろんそれ自体は他のメンバーにも言えることではあるのですが)。歌について彼女が有利な部分を持っているとは言い難い。では、彼女の強みとはなんだろう――そんな風に考えていました。

■1stアルバム「So Sweet Dolce」

さて、彼女のソロデビューについて多少の心配をしていたものの、それはそれとして、非常に楽しみであったことは間違いありません。なんせ後ろについているのはあのコロムビア。同じ「ラブライブ!」シリーズでは先輩にあたるμ'sの南ことり役である内田彩さんと同じ老舗レーベル。個人的には以前から内田さんの曲が好きでライブにも何度も足を運んでいたこともあり、ただ純粋に、どんな曲だろう、視聴まだかな(※)と心待ちにしていました。

※2019年11月末、FCイベントにて楽曲の先行披露が行われていたのですが、あいにく不参加だったため、MV公開が初視聴のタイミングとなりました。

そうしてソローデビューの発表から数ヶ月が経った2020年2月14日。まるでバレンタインのプレゼントのように公開されたのが、デビューアルバムの1曲目となる「So Sweet」のショート版MVでした。

――あっ、かわいい。

スイーツをモチーフにした可愛い世界観。
少し特徴的な可愛らしい声、可愛い衣装、可愛い振り付け。 

まさに彼女が愛する「可愛い」がたくさん詰め込まれた一曲。彼女を知っている人ならおそらく誰もが納得し、予想もしていただろうど真ん中の路線。仕事帰りの電車の中、イヤホンから聞こえる声に耳元をくすぐられながら、やっばいかわいい、めっちゃかわいいと、マフラーで隠した口元を気持ち悪く緩ませたことを今でもよく覚えています。

そして、「So Sweet」のショート版MVから1ヶ月ほどを空けて公開された、全曲ダイジェスト。内田さんと同様に、諏訪さんのイメージ通りの可愛い曲とそれから少し意外性のある曲を混ぜてくるだろうことは予想していましたが、はじめてダイジェストを聴いた時、少し驚きました。

彼女はこんなに多彩な曲を歌うことができるのか、と。

彼女と同じAqoursとして活動し、既にソロとしても活躍する逢田梨香子さんや斉藤朱夏さんはインタビューで自身の楽曲を歌うにあたり苦労したこととして「自分の歌い方を模索するところからはじめた」というエピソードを挙げています。これは実に声優さんらしい回答で、それまではキャラクターとして歌っていたけれど、まったく何の役も背負っていない「自分自身」の声や歌い方とはじめて向き合う機会となった、という話です。

では諏訪さんはどうだったかと言うと、HARAJUKU POP WEBでのインタビューの中で、彼女はこんな風に答えていました。

――収録した曲たちは、どれも女の子の気持ちに寄り添った歌たち。諏訪さん自身も、「この気持ちわかる!!」という意識で歌入れしていたのでしょうか?

諏訪 「その気持ちわかる!!」というよりも、それぞれの楽曲に登場する主人公の気持ちとしてどれも歌いました。だから「自分の気持ちを重ねて」というよりは、声優として「その歌に出てくるキャラクターになりきって歌った」といった形でしょうか。もちろん、「こういう気持ちかなぁ」など、それぞれの主人公の感情を自分なりに考えて、受け止めながら歌っています。
――そこは、諏訪さん自身ではなく…。

諏訪 自分の素の感情で歌うのではなく、あくまでも、その歌の主人公になりきって歌いました。

出典:HARAJUKU POP WEB
https://harajuku-pop.com/6201

方向性は違いますが、彼女の答えもまた実に声優さんらしい、というより「演じることを生業としているひと」の言葉だと思います。

もちろん、その楽曲がアーティスト自身を軸として書かれた曲であるか、あるいはストーリー性のある曲であるかという違いは大きいと思います。先に挙げたふたりは前者で、諏訪さんは間違いなく後者です(どちらも全ての楽曲がそうというわけではありません)。たとえばそこに10曲あれば10人の主人公がいて、10通りの恋をしたりあるいは10通りの悩みを抱えて、10通りの人生を生きている。諏訪さんはその一人ずつを”演じて”いる。それゆえの多彩さと面白さ。前項で「彼女の強みはなんだろう」なんてことを書きましたが、間違いなく、彼女の強みはこの曲との向き合い方だと思います。もちろん「自分」という人間を様々な角度から魅せることも、ひとりの人間が複数の人を演じることも、どちらもかなり高度な表現力が問われることには変わりありません。

表現力を高めれば高めるほど、前者は自らを研ぎ澄まし、より繊細に。そして後者は世界に色を付け、より鮮やかに。一曲歌うたびに見せられるのはひとつの舞台。物語の一頁。見る人を一瞬で自分の物語に引き込む可能性を秘めているのが、彼女の曲との向き合い方。

これを「楽しみ」以外でなんと言えばいいのだろう。

これはただのひとりごとですが、反面、だからこそ思ってしまったりもします。いつか彼女の言葉で書かれた、彼女自身が主人公となる曲が聴いてみたいと。でもそれは今ではないし、きっと、近い未来でもないのでしょう。だから、いつか。いつか、そんな日が来たらいいなあ、なんて。自分の中のひとつの夢です。

■2020年3月と4月のこと

一寸先は闇。
そんな言葉を思い知らされた2020年春。世の中のあらゆるイベントが延期か中止かの二択を迫られる中、彼女の記念すべきソロデビューもその波に逆らえず、3月に予定されていたアルバムの完成記念イベントが中止。それどころかデビューアルバムの発売すらも翌月に延期という誰も想定していなかった事態となりました。楽曲配信が予定通りに行われたことや、イベントの代わりとなる番組を配信してくれたことはとてもありがたく、先の見えない不安の中で大きな救いではありましたが、本来であれば満員の会場で改めてソロデビューをお祝いし、期待と楽しみでいっぱいの日々を過ごすはずだったことを考えると、仕方がないとは言え、そのひとことで片付けるには、いささかやり切れない気持ちが残るソロデビューとなってしまいました。

■ミニアルバム「Color me PURPLE」

世界は決して落ち着いたと言えず、数ヶ月どころか来週の予定もどうなるかわからないような日々が続く中、8月に発表されたミニアルバムの制作。

今作のイメージはタイトル通り「紫」。
ミニアルバムということもあって、曲数こそ前作の半分ですが、前作に収録されている楽曲の”続編”に位置する曲があったり、一口に「紫」と言ってもその一色が持つ可愛さ、かっこよさ、大人っぽさといったイメージを余すことなく取り入れた楽曲が揃い、今回もそれぞれ全くタイプの違う主人公たちの物語を垣間見つつ楽しむことのできる1枚となっています。

※ミニアルバムの中から1曲、「Lilac」のショート版MVが公開されていますので、是非ご覧ください。可愛いので。

■1stライブ「My prologue」

ライブの感想はまた機会を見てとなりますが、開催が決まり、チケットを手に入れ、当日を迎えるまで、ただひたすらに祈っていました。無事に開催されますように。諏訪さん本人はもちろん、関わるたくさんのスタッフの皆さんにも何事もありませんように。ライブまでに関わるすべての人たちに何事もありませんように。厄介なものです。たとえ彼女が元気でも、彼女と関わった人に万が一があれば、つまるところ彼女がいわゆる濃厚接触者となってしまえば、その時点ですべてが白紙になってしまうのですから。

だから本当に奇跡なのだと思います。たとえコール&レスポンスができなくても、直接ありがとうの言葉が届けられなくても、拍手と手にした光でしか気持ちを伝えられなくても。ステージの上にキャストがいて、向かい合うようにファンがいて。そうやって同じ空間で同じ時間を共有できるのは決して当たり前ではないのだということを、改めて実感しました。

■最後に

予定よりも大分長くあれやこれやと語ってしまいましたが、好きなんです。彼女のこと。本当は、自分が彼女を追いかけるようになったきっかけや、どんなところに惹かれているのかについても話したいところなのですが、そこに触れるといつになってもライブの感想がはじまらないので、今回はこの辺で終わりにしたいと思います。

では、また。