ラストダンスは悲しみを乗せて

ある人とお別れをした。

よく笑う人で、お互いお酒も好きで2人で飲みに行ってはくだらない話で朝まで盛り上がったこともあった。

だけど、それも今日で最後らしい。
お金と時間とスケジュールをどうにかすればこれからだって会えるだろう。
だけどもう会えない。
それは、僕と相手の気持ちの話。
だから、話し合って今日でお別れをした。

最後もやっぱり居酒屋に行った。
酔うと饒舌な2人だから楽しそうな時間を過ごす。
だけど、ふっと気を抜くとこの時間がもうすぐ終わる事実で頭がいっぱいになる。
隙間風が吹かないようにいつもよりも多く喋って、酒を飲んだ。
少し無理をした。
あっという間にラストオーダーになった。

居酒屋を出て、駅まで並んで歩く。

今までだったら、少し酔った君の足元が不安定になるから、転ばないようにという言い訳で手を繋いでいた。
強く握ってみたり、指輪をなぞったりしてはしゃいでいた。

けど、もうしない。できない。
ここで手を繋ぐのは優しさでは無いと思ったから。
これから2人が歩く道はそれぞれ違う。
その先で転びそうになっても手を取ってあげられない自分にはもう手を繋ぐ資格はないと思った。

その代わり、2人でいつもより時間をかけて歩いた。
駅に着いたら最後なのが分かってたし。

僕もこの日は足元がふらついていた。
無理して飲んで、酔っ払うなんてダサすぎるね

服が掠れるかどうかの一定の距離感で歩いていた。
僕は今の自分が情けないのと、少し頭が痛いのと、残りの時間を数えてしまって何も喋れなかった。

「なんか下手なダンスみたいだね」
そう言って君は笑った。

そうだね、これはきっとラストダンスだ。
情けなくて、運動神経の悪い僕では君をリードもできないし上手にステップも踏めないけど。
君が最後、そうやって笑うならこれで良いやと思えた。

「もう少し踊ろうよ」
調子に乗った僕は君の顔を見たけど、その目は、まっすぐ遠くを見ていた。
最後の最後まで合わせてくれてたこと。
僕よりよっぽど強い人だってこと。
もう君はここにはいないこと。

全てが分かってしまったような気がして、何も言えなくなった。
そこからはあまり覚えてない。


「幸せになろう、元気でね」
最後のその言葉をどんな顔で君が言って、僕はその時どんな返しをしたのか。
よく覚えてないけど、しばらくは忘れられそうに無いな。

元気でね、身体には気をつけて。

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