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タクシー運転手さんと政治的意見

昔、こんなことを書いた覚えがあります。
「政権とジャーナリズムとは、タクシー運転手と乗客のようなものだ。運転手(政権)は<右寄り>の席でハンドルを握るが、客(ジャーナリズム)は後ろの<左寄り>の席からあれこれ指示を出す」
タクシーに乗っていて運転手さんに話しかけられることがあります。当たり障りのない話題なら、いいんですが…。オウム真理教事件の頃でしたっけ。カーラジオからオウム真理教の幹部らが逮捕されたというニュースが流れていました。ふいに運転手さんが言います。
「けっ、こんな奴らは今すぐ全員、死刑にしちゃえばいいんだよ! …ねえ、お客さん?」
えっ、と一瞬とまどいました。決してオウム事件の容疑者らを擁護したいわけじゃない。明確な死刑反対論者でもありません。とはいえ…。
「ああ、そうっすね〜、運転手さん、こんな奴ら今すぐ全員、死刑ですよ!」
ときっぱり言ってのけるのは、なんだかためらわれる。かといって…。
「いいえ、運転手さん、私はその意見には反対ですね。まだ逮捕されただけで起訴も裁判もされてません。推定無罪ですよ。それに死刑制度については先進国の多くが既に廃止してます。そう無闇やたらに全員死刑なんて口にするのは、あまりにリテラシーを欠いた反知性的な野蛮な態度なんじゃないですか? ぜひ、今すぐ改めてください!」
な〜んて、とても言えません。少なくとも向こうはハンドルを握っている。こちらはいわば「命を預けている」立場です。ヘタに怒らせて関係をこじらせたくない。で、あいまいにムニャムニャ口をにごすようにしてると…。
「ねえ、ねえ、お客さん?」
と念押しでしつこく訊いてくる。これには困ります。ああ、なぜかタクシー運転手さんにはタカ派の方が多いような気がして…これはたまたまかもしれませんが。
「ねえ、お客さん、二酸化炭素ガスや地球温暖化には困ったもんだ。各国首脳も、もうちょっとグレタさんの言うことに真剣に耳を傾けなくちゃいけませんぜ。このままじゃ生態系も狂っちまう。ねえ、お客さん…」
という意見はあまり聞かれないような。あ、ごめんなさい、私の偏見でした。きっとリベラルで意識の高いタクシー運転手さんだっていっぱいいるに違いない。
私が言いたいのは、急に初対面の方に政治的意見を求められるのは、とまどう…ということなんです。ことにここ昨今、トランプか反トランプか? とか、自民か反自民か? とか、やたら政治的分断が叫ばれています。SN Sなんかでは常に激しい炎上バトルが繰り広げられてる感じで。いろいろ思います。さすがに人種差別はまずいでしょ、相手の国籍や人種をネタにツイッターとかで口汚く非難してるようなネトウヨには絶対なりたくないよな、とは思う。けど、いわゆるリベラル勢が敵と認定した相手には、ちょっとした失言でもワーッとポリコレ棒で一斉にぶん殴りにかかるような様を見ると、ああ、あれには加わりたくないなあ、とも思う。とはいえ、ひらがな多めの文章で「じぶんはせいぎだと犬も猫もこくはつしたりしない、だいすきだなあ」とか糸井さんみたいなホンワカつぶやきするのも、なんだかなあ、とは思う(すんません、糸井さん!)。いや〜、どうすりゃいいんだろう。
そういえば、レーガン大統領が在籍時に暗殺未遂に遭い、銃弾で撃たれた。緊急手術を受ける前に医師たちにこう言ったそうです。
「ああ、あなたたちがみんな共和党支持者だといいんだが…」
対する医師は返答したそうです。
「大丈夫です、大統領。我々はきょう一日は共和党員ですから」
いや〜、アメリカ人って奴は…。ほんま小粋なジョークが好きやねんな〜(なんで関西弁やねん!)。しかも、銃に撃たれて命が危ないのに。大統領の緊急手術というめちゃめちゃプレッシャーのかかる仕事の前なのに。
だけど、このエピソードはなかなかに意味深いですよね。お医者さんとか、公共交通機関の運転手とか…人の命を預かる職業の人は、職務中、自他の政治的志向に関わらず尽力すべし…ということなんでしょう。
いや、待てよ、あらゆる職業がそうかも。憲法9条改正・男系皇族絶対保守・夫婦別姓&同性婚認定反対・原発再稼働推進・核武装支持…のクレープ屋さんでも美味しいクレープは、政治的意見が真逆な人にとっても美味しいクレープじゃないか? この辺はもうちょっと考えてみる必要があるかな。
タクシー運転手さんとのやり取りから、なんだか大げさな話になりました。では、また…。

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